63.王都ゼラルイータ

 翌日、セナはレギオンを連れて王都へ繰り出した。

 まず向かうのは教会であり、マップを頼りに広場を目指す。


「教会が二つある……」


 ゼラルイータの教会はなぜか二つ存在していた。

 片方は真っ白な建材で、反対側は真っ黒な建材で建てられている。

 訊いてみると、どうやらゼラルイータでは秩序陣営と混沌陣営で建物を分けているらしい。


 セナはとうぜん混沌陣営を奉る建物に入る。

 内装は色が違うだけでこれまでの教会とあまり変わらない。広間に入って祈りを捧げる。


『――捧げ物を確認』

『……我が信徒よ、汝が試練を乗り越えたことを嬉しく思う。その心と実績に見合った加護を与えよう』

『――恩寵によって【疫病の加護】が強化されました』

『――恩寵によって《クルーエルハント》が《クルーエルハンティング》に変化しました』

『――恩寵によって【無垢なる光】が【純粋無垢な光】に変化しました』

『――恩寵によってセナの短弓(オリジナル)が装備スキルを獲得しました』


 これまでのように捧げ物をすると、今回も色々と強化が入ったようだ。

 ジョブ専用アーツである《クルーエルハント》は《クルーエルハンティング》になり、使用すると一分間、全ての斬属性攻撃に欠損を付与する効果を与える、となっている。


 【純粋無垢な光】はその効果量の上昇。混沌陣営なら更に追加で上昇する。

 光輪の形も変化したようで、幾つかのパーツが二重の円を描く。円の中心には“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の紋様が浮かび、黄金色のそれらは一切の陰りなく輝いている。


 そして、短弓に付いた装備スキルは【技巧上昇】だ。直接ステータスのDEXを上昇させるスキルではないが、確かに補正として存在する。これまで以上に弓の腕が、狩人としての技巧が上昇するのだ。


「…………」


 聖なる光が収まり、神像はただのクリスタルへ戻る。神威を与えられる領域には、まだ至っていないらしい。

 セナはレギオンを連れて教会を後にした。


 次に向かったのは冒険者組合である。これまた大きな建物だ。 

 開きっぱなしの扉から活気づいた声が聞こえ、中に入ると様々な人でごった返している。


 プレイヤーの姿もちらほらとあり、セナは思わず物陰に隠れた。相変わらず人が苦手らしい。

 歩法を活用して人々の死角を縫いながらクエストを探すセナ。


「(……こっちはレベル40。あっちは50。これは……レベル60だけど受注条件が難しいね)」


 今更だが、冒険者として組合に登録されている人にはそれぞれランクが与えられている。


 現在のセナのランクはブロンズⅡであり、最低位のアイアンⅠと比べれば四段階も高い。

 けれど、レベル60のクエストを受注するにはシルバーⅠが必要であり、ブロンズⅢからシルバーⅠに上がるためには幾つかの条件を達成しなければならない。


 その条件の一つが、犯罪歴が無いことである。

 大変不本意ではあるが、セナは指名手配を受けている身だ。登録抹消こそされていないものの、犯罪者として扱われている。


 それでもクエストを受注できるのは、ここがゲームだからだ。ゲームだから全てのプレイヤーに、可能な限りの譲歩が与えられている。

 犯罪者だろうと、よほどのことが無い限りクエストの受注自体は出来る。

 ……それはそれとして、NPCたちは犯罪者がいたら逃げるか戸惑うか、捕らえようとするが。


 セナは冒険者組合を後にする。

 ちょうどいいクエストが無かったので、狩りをしたほうが効率がいいと判断したのだ。


「――なあ、そこのアンタ。犯罪者だろ。だがクズ野郎じゃあない」


 セナはピタリ、と足を止める。

 そこは路地裏に繋がる横道であり、物陰から話しかけられたからだ。

 ついでに述べるのなら、殺気のようなものも当てられている。


「……ああ、こっちに戦闘する意思は無い。殺気を当てたのは、話しかけただけじゃ気付かないだろうと思ったからだ」


 セナは短剣に添えていた手を離す。


「助かるよ。少し、こっちに来て話そうか」


《――ユニーククエスト:烙印狩りが発生しました》


 アナウンスが流れたので、セナは男に着いていく。

 横道に入り、路地裏を進み、何度も右折や左折を繰り返し、とある家屋の中に入った。

 そこは酒場らしい様相だったが、セナは視線を感じる。バーテンダーも客も、さり気なくだがセナを観察していた。


「……同じモノを注文しろ。支払いも同じに」


 小声で男から囁かれる。


「ピンクビーチのソルトカクテルと南国果実の盛り合わせ。支払いはいつもの奴で頼む」

「わたしにもピンクビーチのソルトカクテル、南国果実の盛り合わせをください。支払いは……いつもの奴でお願いします」


 バーテンダーはチラリと視線を寄越し、「奥の部屋で用意しています」と言った。

 男の後に続くように、セナも奥の部屋へと侵入する。


 そこは少し豪華な個室だが、男は素通りして反対側の通路に進む。従業員専用と書かれているが、大丈夫なのだろうか。

 通路は薄暗く、やがて木箱が詰まれた部屋に辿り着いた。

 酒場に繋がっている扉があるので、ここは在庫を置いているのだろう。


「こっちだ」


 男は木箱の一つを退かし、床にある隠し扉を開いた。あまり大きくはないが、人一人が通るには充分な幅がある。

 梯子を伝って降りれば、如何にもな扉がある。


 この念入りっぷりに、セナは生命教団の拠点を思い出した。あそこも決まった手順を踏まなければ入れないようになっていたので、ここは後ろ暗い組織の拠点になっているのだろうか。

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