62.ゼラルイータ到着
王都ゼラルイータへの道中に出現するモンスターは、今となっては格下である。戦闘は一方的な狩りとなり、ドロップアイテムは全てレギオンの餌になった。
「もぐもぐ、もぐもぐ……」
門に並んでいる間、レギオンはおやつを食べていた。シャリアの魔塔で貰ったモンスターの剥製だ。
「美味しいの? それ」
「……そこはかとなく?」
首を傾げレギオンは言う。
剥製の大部分は影の方で捕食しているので、激辛串焼きみたいに食べたいとは思えないのだろう。
「次! ……ん? お前…………指名手配犯だな!」
セナの番になると、門番は二度見して槍を構えた。
指名手配の情報がここまで届いていたようで、セナの人相も共有されているらしい。
「……いや、ん? えぇと……なんだその光輪は!」
「光輪……? あ、これは貰いました」
しかし、セナの背後――正確には頭の後ろ――に浮かんでいる光輪を見て、門番は戸惑った様子を見せる。
この明らかに神々しい印象を受ける光輪は、どう見ても犯罪者が持てるとは思えない。
だけど、目の前の少女が指名手配されていることは事実なので、どうすればいいか困惑しているのだ。
セナは一瞬何のことだと困惑したが、【無垢なる光】のことだと思い出す。
エフェクトを切っているので、セナの視点では眩しい光は発生していないのだ。
「…………いや、それでも指名手配犯なのは間違いないはずだ」
と言うことなので、セナはゼラルイータに入ることが出来なかった。門番に攻撃され、追い出される。
追い出されたセナはむすっとしながら、とぼとぼと王都の外周を歩く。
この街はこれまでのどの街よりも巨大なので、夕暮れまで歩いても半周すら出来ない。
しかし、スラム街を発見することは出来た。
木造の掘っ立て小屋が壁に沿うように建てられている。
身なりが汚い貧困層だと思われる人の姿があるので、ここはやはりスラムなのだろう。
彼らは暗い目でセナを一瞥する。中には舐め回すような視線を向けてくる男や、さり気なく後ろを付いてくる者もいる。
「……へへっ、女だ」
「おいお前ら、ちょっと顔貸せよ……」
ゼラルイータを囲う壁の前に来た辺りで声が掛けられた。
振り返ると、下卑た顔の男五人がセナとレギオンを囲むように立っている。
「神官サマは優しいからなぁ……おれらみてぇなクズでも相手してくれるんだろぉ?」
そう言って掴んでこようとしたので、セナは屈んでその手を躱した。
それでも執拗に絡んでくる男は、業を煮やしたのか小さなナイフで斬りかかってきた。
「このっ……!」
その態度が気持ち悪かったのと、相手が武器で攻撃してきたため、セナは短剣を取り出し男の腕を斬り飛ばす。
「……ァ? ァァァアアアアッ! こいつ、このアマ! おれの腕ぇ!」
「レギオン、やっていいよ」
「わかった」
レギオンは影を広げ、無数の腕を出現させて男たちを掴む。そして……牙がたくさん生えた口腔で無残に、容赦なく、噛み殺した。
悲鳴を上げ、しかし逃げることなど出来ず男たちは呑み込まれていく。
スラムの人々はその恐ろしい光景に逃げ惑う……ことはなく、呆然とした様子で蹲ったり突っ立っていたり、何をするわけでも無くただそこにいる。
「(この人たちは何をしているんだろう……?)仕方ないから、こっそり入ろう」
このスラムにいても意味は無いと感じたセナは、こっそり街に侵入することを決める。
レギオンの影の中に隠れ、レギオンは日暮れによって強まった影を利用して街中に侵入した。幸い、スラムの人たちが作ったらしい亀裂があったので、そこから入ることが出来たのだ。
レギオンの人相は出回っていないので、もし見つかっても問題無いはずである。
「ここは……」
ゼラルイータに侵入した後、影から出てきたセナは辺りを見渡す。
どうやら路地裏に繋がっていたようで、ここも少し治安が悪そうだ。
「……あっちに行こう」
また絡まれても面倒なので、二人はさっさと路地裏を抜けることにした。
向かう先はとうぜん宿である。睡眠のためにも宿泊は必要だ。
いい宿を選んだのでベッドもふかふかである。レギオンはベッドにダイブして楽しそうにしている。
「(明日は教会でお祈りして……冒険者組合でよさそうなクエストがあったらそれを受けようかな)」
ついでに装備のメンテナンスを済ませると、時刻はもう深夜零時だった。
セナは兎を呼び出し、抱っこして眠りに就く。ふわふわで暖かいから抱き心地抜群の枕だ。
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