23.第三の街ガンマリード

 西の森を奥へ奥へと進んでいくセナは、ふとモンスターのレベルが高くなっていることに気づいた。


 モンスターを斃した際に得られる経験値が増えているのもそうだが、従魔の自爆だけでは削りきれなくなっているのだ。


「うーん、ジョブ補正は従魔に入らないからなぁ」


 普通のテイマーなら使えたスキルは自爆のさせすぎで使用できず、【短剣術】と【投擲】のために削除した。

 セナのスキルはテイマー寄りから狩人寄りに構成が変わっているため、従魔の自爆攻撃を強化するためには、単純に従魔のレベルを上げなければならない。


 今の従魔のレベルは25程度。セナのレベルは37まで上がっているので、従魔はあまり強くなっていない。

 或いは……


「(もう一匹か二匹、増やした方がいいかな)」


 従魔を増やすか。

 現在セナがテイムしている従魔はホーンラビットとヴォーパルバニーのみ。レベルを上げたので多少強くはなっているが、そもそもの地力が低いのだ。


「どんな子をテイムしようかな」


 馬がいれば移動が楽になるなぁ、と考えながらセナは道を歩く。

 いつの間にか地面には人が往来するための地面があった。

 土が踏み固められただけの簡素な道だが獣道ではない。


 道の両脇には未だ森が広がっているが、進むにつれ密度が下がっていく。

 出現するモンスターは西の森とほぼ変わらない。けれど、その強さは一段上である。


「できれば乗れるようなモンスターを従魔にしたいけど――」


 セナは跳躍して木の上に移動した。

 そして次の瞬間、草陰から音もなく突進してきた蜈蚣むかでらしきモンスターが、先ほどまでセナがいた場所にその𨦇角を突き立てる。


「(レッサー……じゃなくてグレーターかな。大きいし)」


 そのモンスターの種族はグレーターセンチピード。

 鎧のような強度の外骨格を持つ、レッサーセンチピードの中でもとりわけ戦いに慣れた個体が進化したモンスターだ。


「《クルーエルハント》!」


 ギチギチと甲殻を軋ませ、𨦇角を打ち鳴らし威嚇するグレーターセンチピード。

 その𨦇角の一つをセナは斬り飛ばした。


 𨦇角はグレーターセンチピードにとって自慢の武器だ。それを切断されたとなれば怒り狂うのも当然である。

 無数の足を突き立て、尾を振り回し、大蜈蚣はセナを殺そうと躍起になる。


「(ちょっと硬いね……乗り物に良さそう)」


 対するセナはというと、ちょうど良さそうな乗り物としてグレーターセンチピードを認識していた。

 これに《テイム》を使えば移動時間を短縮できるはずだと。


「《プレイグポイゾ》」


 セナは回避の際に大蜈蚣の足に手を触れ、《プレイグポイゾ》を発動する。

 普段は《マナエンチャント》を用いて従魔や武器に付与しているが、これは本来接触したモノに毒属性を与えるアーツだ。

 セナの場合は更に疫病をも与える。


 与えられる疫病の種類は、レベルの低い今は簡単に治療可能な軽度のものばかりだが、戦闘の際に相手の体調を崩せるとすれば、それでも充分に強すぎる。


「《クルーエルハント》! ……もう抵抗しても適わないことは分かったでしょ。大人しくしてね。《テイム》」


 大蜈蚣は怒りより恐怖が勝り始めていた。

 足を何本も斬り飛ばされ、不気味な技で毒と病を盛られ、攻撃しても躱される。


 なので、グレーターセンチピードは生き残るため服従することを選んだ。

 良くも悪くも虫程度の知性なので、強い相手に従うというモンスターらしい本能が強いのだ。


「……よし、じゃあ今から君は乗り物ね! 次の街までゴー!」


 セナは早速グレーターセンチピードの背に乗った。

 仮にもグレーターセンチピードなので、道を疾走する彼にわざわざ喧嘩を売るモンスターは少ない。


 やがて、次の街が視界に入ってくる。セナが歩くより断然早い到着だ。


「そこの旅人! 止まれ!」


 グレーターセンチピードに乗って移動していれば、当然止められる。

 セナはグレーターセンチピードから降りて声を掛けてきた門番と視線を合わせた。


「……旅人、でいいんだよな。テイマーか?」

「一応テイマーですけど、今は狩人の方が本職だと思います。あ、一番は女神様ですからね!?」

「それは見たら分かる」


 プレイヤーからすればよく分からない古めかしい装束だったが、NPCからすると何かしらの女神の信徒だとよく分かるらしい。

 門番は構えを解いて、門の横にどけた。


「ようこそ、ガンマリードへ。アルファディアからだと道中大変だっただろ。普通の旅人は北から迂回してくるからな」

「北……? 道が繋がっているんですか?」

「ああ、ベータリマからな」


 セナはなぜここがガンマリードと呼ばれているか……ギリシャ文字で三番目のガンマが使われているかを理解した。

 NPCはアルファ、ベータ、ガンマ、と順番に通ってくるのだ。

 森を抜けてやってくる人は少ないのだろう。


「あの森は大昔から伝承があってな。奥に入るべからず、さもなければ恐ろしき悪魔に喰われるぞ、ってな。ああ、足止めして悪い、通っていいぞ」


 そして、セナはガンマリードへ足を踏み入れた。

 従魔は自由に出し入れできるので、大蜈蚣も兎二匹も今は仕舞ってある。

 

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