22.狩人によるボス狩り

 西の森のボスモンスターは強力な毒を持っている。それは通常のモンスターの傾向から明らかだろう。

 毒持ちが出現しているのだから、ボスモンスターが毒を持っていないとは思えない。

 況してやその辺の雑魚と同じ程度の症状で済むはずもない。


 しかし、西の森はダンジョンではないため、ボスエリアがどこにあるのか不明であった。マップそのものが複雑なのもあり、探索には時間が掛かる。

 なので大多数のプレイヤーはボスと戦う前に、この状態異常モンスターだらけの森の中で、地道にボスエリアを探さなければならないのだ。

 それはとても大変な作業であり、北と東に比べてプレイヤー数が少ないのはこういった理由からである。


 だが、それらはセナには関係無い。

 狩人は獲物を探す術に長けている。セナに毒物は通じない。

 狩人は獲物を追跡し屠る者だ。戦うためではなく、ただ狩るために追跡をする。


「(……ジョブ補正って凄いね。知らないはずなのに分かる)」


 勘のような不思議な感覚を頼りに森を進んでいたセナは、いつの間にかボスエリアに到達していた。

 狩人としての勘が、こちらに獲物がいるとセナに教えていたのだ。


《――ボスモンスター【キングヴァイパー】が出現しました》


 演出が始まり登場したのは巨大な蛇である。

 【キングヴァイパー】は白っぽい鱗に覆われているが、アルビノ種で無いことは目と尻尾で判別できる。

 尻尾の先は白とは正反対の、黒みがかった紫色をしているのだから。


「とりあえず、先手必勝かな」


 セナはアバターの制御権が戻ったと同時に駆けだした。

 その手には弓矢……ではなく短剣とポーション瓶が握られてる。


「《プレイグポイゾ》《マナエンチャント》」


 迫り来るセナに大蛇は牙を剥きだして襲い掛かるが、噛み付かれる直前にセナは跳躍して大蛇の背に登った。


「そこで自爆です!」


 そして、自分に意識を向けさせ囮となることで、本命の攻撃である従魔の自爆を大蛇の下顎に命中させる。

 その威力はイベント時に襲い掛かってきたPKを、セナを助けようと加勢したプレイヤー諸共蹴散らしたほどだ。


 大蛇の頭は跳ね上がり、無防備な姿がセナの前に晒される。


「《クルーエルハント》!」


 いくら強力なアーツでも短剣では大蛇の頭を切断することは出来ない。

 なので、セナはまず大蛇の鼻先を斬り落とした。

 蛇はピット器官なるもので周囲を認識していると聞いた覚えがあるセナは、それを排除しようとしているのだ。


 鼻先が切断され生じた空洞に、すかさずポーション瓶を《投擲》で投げつける。


「重ね掛けした壊毒のポーションですよ! ひとたまりもないですよね!」


 激痛とピット器官が機能しなくなったことで混乱し暴れる大蛇の背を、セナは《クルーエルハント》で斬りつけていく。

 欠損にこそならないが、刻まれた傷は通常の怪我より治りが遅くなる。


「わっ……!」


 たまたま、偶然ではあるが、大蛇の尻尾が急に跳ね上がり、丁度そこにいたセナが空中に投げ出される。

 それは大蛇も感覚で理解し、追撃しようと尻尾から毒液を噴射した。


 蛇なのに毒そこなんだ……という驚きと疑問を覚えたセナは、しかしそれを正面から受ける。

 なぜなら、セナに毒は通じないからだ。

 訓練の際にジジによって貫通されたものの、そのジジからちょっと格上程度の実力じゃこの耐性を抜くことは不可能だと太鼓判を押されている。


 噴射された毒液の中で武器を切り替えたセナは、至って冷静に弓を引き絞った。


「《ペネトレイトシュート》!」


 放たれた矢は勢いよく飛翔し、大蛇の尻尾に深々と突き刺さり、地面へと叩きつけた。


「これでトドメです!」


 そして、再び自分に注意が向いたことで大蛇の意識から外れた従魔二匹が、蛇の死角から飛び出し自爆攻撃をかました。

 しかも、ヴォーパルバニーに至っては、自爆の直前に持っていたナイフを蛇の口腔目掛けて投げつけているではないか。


 口腔へ突き刺さったナイフのダメージ、超至近距離で放たれた二匹分の自爆、セナの追撃。

 これまで他のプレイヤーが苦戦したボスモンスターは、大したダメージを与えることも出来ずに、いとも呆気なく屠られた。


《――【キングヴァイパー】が討伐されました》

《――初討伐報酬として【王蛇の毒水晶】が贈与されます》


 アナウンスが流れ報酬が贈与された。

 セナは今しがた手に入れた【王蛇の毒水晶】の詳細を確認する。


「(……うーん、何かに使える……かなぁ? とりあえず持っておこう)」


 どうやら役に立ちそうで立たない微妙なアイテムだったらしい。

 セナはアイテムをインベントリに仕舞い、ボスエリアの更に奥へと足を進める。


 そういえばこの先にいけば街があるんだっけ……?

 うろ覚えの知識があったのと、このままアルファディアに戻ってもやることがあまり無いため、セナは探索を続行することにしたのだ。

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