24.ガンマリードの異変

 ガンマリードに到達したセナだったが、何をしようか悩んでいた。

 従来のゲームと違って、VRが主流の現在は自分でクエストを探さなければならない。親切にアイコンが表示されていたりはしないのだ。


 なので、とりあえず冒険者組合に向かった。


「クエストクエスト~……何も無い」


 だが、クエストボードは何も貼られておらず、組合内も閑散としている。

 セナは職員に話を聞くことにした。


「あー……少し前に近場を荒らした人がいるんですよ。モンスターが減ったのはいいことなんですけど、そのせいで縄張り争いが激化したみたいで。調査しようにもこの街に常駐してくれる冒険者さんは少ないですし……」


 溜息をつく職員NPC。

 NPCはNPCなりの判断で行動をするので、セナはそんなこともあるんだと納得した。


「……よかったら手伝いましょうか? ちょうど暇だったので」

「ほんとですか!? いやー助かります! あ、調査して欲しい場所はこちらで指定しますので、これに書いてあることを確認してきてもらえますか?」


《――クエスト:ガンマリードの異変を調査せよが発生しました》


 渡された用紙には箇条書きで何を調査してほしいか書かれてあった。

 セナは早速調査するためフィールドへ繰り出す。


 ここガンマリードは森と丘陵に囲まれた街であり、特に旨みがあるというわけではない。

 そのため、NPCの冒険者数も少ないのだ。


「生息するモンスターの種類と数、あと地形も調べる必要がある、と。それが全部で四つかぁ」


 東西南北、それぞれで調査する必要があるらしい。

 セナはまず東の調査から始めることにする。


 街の東に生息しているモンスターは虫系、センチピードを始めとした物理攻撃力に優れたモンスターが配置されている。

 レッサーが毒持ちだったのに、通常個体だと毒を失う不思議な生態をしているこのモンスターは、グレーターにまで成長すると体液が毒へと変化する。


 無論、そのグレーターセンチピードがセナにテイムされている以上、レベル自体はそこまで高くない。

 グレーターと呼ばれていても、所詮は序盤のモンスターということだ。


 他にも色々と生息しているが、事前に渡されていた用紙と一致するモンスターをセナは見掛けなかった。

 従魔に探させても見つからなかったため、今は異変とやらでいないのだろう。セナはそう判断した。


 次は南側へ移動することにしたセナは、グレーターセンチピードに乗って移動する。


「南にいるのはハンティングウルフとタイニーディアーか。……全然いないね」


 こちらもやはりモンスターの姿は見えない。

 群れで行動するハンティングウルフは一体も遭遇せず、タイニーディアーも遭遇したのはレベルが低い個体だった。


 西と北も同様で、事前に職員から聞いたモンスターは殆ど生息していなかった。


「ひ、暇……! やることが無い……!」


 あまりにもモンスターがいないため、バグではないかと心配し始めるセナ。

 しかし、クエストが発生している以上、バグではなく仕様である。


「(……原因はやっぱり、荒らしたっていう人かな。何をしたんだろ)」


 四箇所全ての調査が終わったので、組合に戻って調査結果を報告しようとするが……


「――ァ? 見たことねェ奴がいるなァ?」


 背後から声を掛けられたセナは、足を止めて振り返る。

 そこにいたのは如何にもな格好をした男だ。黒で統一された装備はその辺で売ってるモノとは格が違う。明らかに上位の装備だ。


「神官……いや狩人かァ? まァどッちでもいいかァ……。とりあえず死ねやァ」


 その男は長剣を懐から抜く。

 どこにも鞘なんて無かったのに、外套の中から突然現れた。

 血塗れの剣だ。獲物を殺したばかりだろうか。……いいや。


「唸れェ狂い月ィ!」


 男が宣言すると同時に、刀身に付着していた血が蠢き溢れ出す。血は次々と柄から溢れ、瞬く間に地面に血だまりを作った。

 セナはそれが相手の準備行動であり、敵対行動であると判断した。


「《ブラッドエッジ》ィ!」

「蜈蚣さん!」


 飛翔してくる血の斬撃から避けるため、セナはグレーターセンチピードに騎乗した。

 多少の攻撃なら弾ける装甲を持っているグレーターセンチピードだが、《ブラッドエッジ》は並大抵の攻撃ではなかったようで、一撃毎に大ダメージが入る。


「んな雑魚で防げるかよォ!」

「《ペネトレイトシュート》!」


 耐えきれず倒れたグレーターセンチピード。その背から跳躍したセナは、男に矢を射る。

 しかし、アーツによって放たれた矢は易々と切り払われた。


「(強い……ジジさんよりは弱いけど、それでもかなり強い! 多分コイツが異変の元凶。なら……)」


 この数秒の攻防で彼我の実力差を理解したセナは、それでも狩人として狩り殺す決意をする。

 男を獲物に認定したのだ。


 そして、セナのジョブは“疫病と薬毒司りし女神の慈悲無き狩人”だ。彼女が狩りと認識すれば、どんな行動だろうとジョブ補正が入る。


「(まずは攪乱)」

「黙ッてばッかじャあねェか、つまんねェなァ!」


 男は距離を詰め斬撃を繰り出す。

 それを避けたセナは反撃せず、まず姿を眩ませることを優先した。


「ァ? どこ行きやがッ――」

「《クルーエルハント》!」


 ジジから教わった歩法で男の背後に移動したセナは、確実に機動力を殺ぐため、足を狙って短剣を振るう。

 【短剣術】の補正も加わっているため、以前より鋭く、素早い斬撃が可能となっている。


「ッ、迸れェ!」


 片足首を斬り飛ばされた男だが、痛みに悶える様子は無い。

 それどころか即座に反撃を繰り出してきた。

 血だまりが発光し、その全てが細かな刃となって空へと射出された。


「チッ……埋めろォ」


 片足で器用に距離を離した男は、長剣から溢れる血で切断された足を補完する。

 そして、軽く動かしてから、楽しむように残虐性の高い笑みを浮かべた。


「テメェ、おもしれェじャねェかァ。殺される前に名乗ッとけやァ」


 対するセナは、殺される気は毛頭無いと言わんばかりの沈黙だ。

 ジジから教わった構えを解かず、いつでも動けるよう警戒している。


「(欠損させてもあの血が補うなら、先に手を切っておくべきだったかな。次はそうしよう)」


 周囲にモンスターはいない。二人の間に障害は無い。

 戦いはまだ始まったばかりだ。

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