15.アーツ修得への道・疫病編、薬毒編
極彩色の世界を進む。地面も、空も、木々と同じく極彩色だ。
セナは質素な小屋の前に辿り着いた。
「あ、あのぉ……」
控えめにノックをする。二回はトイレの空室確認だとどこかで聞いた覚えがあるから三回ノックした。
すると、かちゃり……と鍵が外れる音がした。
立て付けが悪いのか扉は内側に開き、セナは隙間からそぅっと顔を覗かせる。
「――そんなとこにいないで、早く入りなさい」
「ひゃいっ!? ……え、あの、誰ですか……?」
肩を叩かれたセナは驚きの余り、声が上擦り飛び上がった。
セナの肩を叩いた女性は困ったような顔をしている。
「女神様を待たせてはいけないよ」
「あっ、お邪魔します」
言われてはたと気付く。
そうだ、自分は女神様に招待されたのだと。
招待されたのに待たせるのはとても失礼なことだと、セナは過去のゲームで学んでいた。それを思い出したのだ。
小屋の中は外と同じく極彩色だが、幾分か柔らかい印象を受ける。
そして――そこには女神がいた。
お淑やかに、上品な仕草で紅茶を嗜んでいた女神は切れ長の瞳を寄越し、小さく微笑む。
セナは背後の女性に勧められるがまま女神の対面に座り、少しの緊張と、好奇心と、なにより尊敬と感謝の念を抱いて女神を見つめる。
『……我が美貌に見惚れたか?』
無言で頷くセナ。
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”は、セナがこれまで出会ったどのキャラクターよりも美しく、格好のいい女性だったからだ。
遺伝子疾患の一つとして有名なアルビノの肌と瞳。ギリシア系の神話をモチーフとしたゲームでよく見掛けるドレープを纏い、その上から羽織るケープには様々な植物らしき意匠が刺繍されている。
また、周囲と同じ極彩色の
『……少し照れるな。ジジ、用意をしなさい』
「はい、女神様」
ジジと呼ばれた女性は恭しく頭を下げてから小屋の奥に向かった。
取り残されたセナは改めて、自らが信仰する女神と向き合う。
『……こうして顔を合わせるのは初めてか。我が信徒よ、なぜ汝はここに呼ばれたと思う?』
「分かりません。でも嬉しいです」
『……そうか。汝は御技を会得するため儀式をしようとしていたが、アレでは不十分だと判断したので、ジジに命じて繋げさせたのだ』
「女神様ではないんですか?」
『……招待をしたのは我だが、繋げたのはジジだ。我が信徒は片手に収まる数のみ……我が力が削がれるのも必然というもの』
女神は落ち着いた声色で、諭すように言葉を紡ぐ。
頭の中に反響するような、それでいて落ち着く不思議な声色だ。
『……故に、我が信徒が我に尽くすように、我は我が信徒に報いるのだ。汝の御技は、我が神域にて執り行う試練を通して会得しなさい』
「っ、わたしは何をすれば……?」
ごくりと唾を飲み込んで、セナは質問を投げかけた。
『……ジジに教えを請いなさい。我が神域の尽くは毒であり病。汝の力となるはずだ』
「と、言うことです。先輩からのありがたい教えですよ」
女神は微笑みそう答える。
そして、小屋の奥から戻ってきたジジは弓と短剣を装備していた。
見るからに豪奢な弓と短剣だが、見た目だけの武器ではないのは明らかだろう。
「“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の神官にして、狩人たる私が、貴女に我々流の戦い方を教えてあげましょう」
ジジは不敵な笑みを浮かべると、セナの視界から姿を消す。そして、突如としてセナの腹部に鈍痛が響いた。
抉り込むように放たれた蹴りはセナの内臓にダメージを与え、そのまま小屋の外へと吹き飛ばす。
声を上げることすらできない、鋭い攻撃だった。
「狩人は獲物を狩るために全力を出します」
急いで立ち上がろうとするセナだったが、ガクンと地面に崩れ落ちる。
見ると、足の健が斬られているではないか。
「狩人は決して油断してはなりません」
どこからか飛来してきた矢がセナの視界を潰す。
「狩人は何があっても冷静でなければなりません」
手探りで状況を確認しようとしたセナの手が、金属のような何かによって噛み砕かれる。
「狩人は手足をもがれても獲物を屠るために行動しなければなりません」
膝を割られ、夥しい数の矢で足をズタズタにされ、背骨を砕かれ、吊され、首を斬られる。
そして、多種多様な状態異常が加護を貫通し、セナのアバターを冒してデスペナルティに追い込んだ。
「そしてなにより、神官である私達は自らが信ずる神のために戦わなければなりません。狩人の御技はそのための力であり、狩人の心得はそのための心得です」
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