16.ジジ式地獄の訓練!
このゲームでプレイヤーが死亡した場合、アバターは即座に再構築され最後に訪れた街で復活することになる。
その際にデスペナルティとして全ステータスが半減され、解除されるまで経験値が取得不可能になるのだ。
運営がゾンビアタック対策として実装したこのペナルティは賛否両論だが、悪質なプレイヤーによる粘着対策にもなっているので、βテスターからは歓迎されている。
『……凄いだろう、ジジは』
目が覚めたセナは神域で復活した。デスペナルティは課されているが、復活場所が街ではないことに違和感を覚える。
『……ああ、復活場所はこっちに移しておいた。我が信徒のためだ、思う存分に稽古をつけてもらうといい』
どうやら女神の仕業らしい。
これには運営の事情もあり、一々街で復活させていたらそのたびに神域に招待しないといけないため、世界観を維持するためにもこのユニーククエスト中はリスポーン位置が神域に固定されるのだ。
「君たち来訪者は復活すると聞いていたから、手本として私のやり方で君を狩り殺してみたんだ。心は折れていないだろうか?」
「大丈夫、です」
言葉ではそう言うが、セナの内心はとても混乱していた。
それは殺されたことでも、執拗なまでに獲物の手札を削ぐ戦法のことでもない。
【疫病の加護】によって完全耐性があるはずの状態異常に冒されたことだ。
病に罹らないはずの体が病に冒された。それが混乱の理由であり、彼女が恐怖を覚えた理由である。
「では今度は一つずつ教えていこう。あと、加護についてもね」
ジジはウィンクを飛ばし、小屋から退出した。セナもその後を追う。
「……あの、なんで耐性があるのに状態異常になったんですか?」
若干震える声でセナは訊く。
足を止めたジジは振り返り、彼女の様子をみて、十全に理解していないと判断した自分を正しかったと思う。
「……神々の加護は最初から十全に発揮されるものではないんだ。私たち信徒と共に成長する。もちろん、私たちに与えられた加護は耐性に特化しているから、他の雑多な神々の状態異常なんて効かないけれど」
「じゃあ、なんで――」
「それは理解度の違いだよ。自分に与えられた力がどこまで有効で、何が出来るのか……。何でも出来る、なんて過信は禁物だ」
ゲーム的には、単に状態異常を与える側のステータスが異常なほど高く、受ける側のステータスがとても低かったがために起きた現象なのだが、NPCは彼らの常識を基にして会話をする。
つまるところ、彼女は過去に試したのだ。
自分に何が出来て何が出来ないのか。加護はどこまで通用してどこから通じないのか。
その結果、彼女は格下であれば完全耐性だろうと突破できることを知ったのだ。
「君たち来訪者は私と違った規則の下に生まれていると女神様は仰っていた。殺しても復活する不死の体、効率的にマナを取り込める能力。正直に言うと……嗚呼、私は君の体を妬ましいぐらいに羨んでいる。だからこそ、今の君はとても弱いということを、教えたかった」
少し申し訳なさそうな様子でジジは述べた。
それはセナに伝わり、彼女がセナを苦しめたくてやったわけではないと理解する。
「これから君につける稽古はとても厳しいものになる。覚悟は出来ているだろうか?」
「……はい!」
自分の耐性がまだ完全とは言えないことを身に染みて理解したセナは、それを克服するため覚悟を決めた。
リアルとは違って克服できる病ぐらいへっちゃらだと自分に言い聞かせて。
「では、まずは状態異常になろうか。耐性を強くするには継続して受けるのが一番手っ取り早い」
「へ?」
無造作に草木をむしったジジは、それをセナの口に突っ込んだ。
あまりの不味さにもんどりうったセナは、幾つもの状態異常に冒されたことを知る
意識すれば視界の端に現れる簡易ステータスに、猛毒や眩暈や神経阻害など様々な文字が何行にも
「さて、それじゃあ身のこなし方から始めよう。ポーションはあるね? 無ければ作り方を教えるからあとで量産するんだ」
それから、スパルタなんてレベルじゃない訓練が始まった。
普通なら後送されて安静を余儀なくされるような状態異常に冒されながら、一つ一つ丁寧にじっくり叩き込まれるのだ。
足の曲げ方、姿勢の変え方、動くときの速度、少しでも違えばそのたびに矯正される。
リアルでは深夜になっても、ログアウトする必要が無いセナは訓練を続ける。睡眠が必要になってもゲーム内で寝ればいい。
ジジは自分が過酷な訓練を課していることは分かっているが、それに食らいついてくるセナの胆力に驚嘆し、ならば短期間で強くなれるよう徹底的に叩き込もうとしている。
「(――体の動かし方だけでこんなに時間が掛かるなんて……!)」
二日掛けてようやく及第点をもらったセナは、疲労困憊な体に鞭打ってポーションを作成する。
レシピはジジから教わったが、出来上がるものは何故か『古・上級ポーション(特殊)』ばかり。効果は状態異常だけ残して完治させるというもの。
状態異常を治さないのは訓練のためだ。ジジが必要無いと判断したら状態異常も治すレシピを教わることになっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます