54.守護者が護りし魔塔の最上階

 アゼムを撃破したセナは第二階層に挑む。

 第一階層――このダンジョンでは守護者のいる階と迷路の階を合わせて一階として扱うようだ――の前半と似た構造の迷路を進み、道中襲ってくる面倒な雑魚を蹴散らしていく。


 階段前には第一階層と同じく宝箱があったが、中身はまたしても古代アグレイア金貨だった。

 消耗品の補充が出来ないので、最悪の場合、最後のボスとは短剣と従魔のみで戦う羽目になりそうだ。


 ……そして満を持して挑んだ守護者戦で、セナは手痛い敗北を経験する。


 第二階層守護者【堅き土のニーチェ】

 彼は大槌を主武装としており、破壊力と防御力に優れていた。しかも、大地を従えるようなアーツを多用したため、フィールドの変化も激しかった。

 討伐報酬は【ニーチェの腕輪】だった。

 デスペナルティ数、一回。


 第三階層守護者【艶やかな水のリムリス】

 彼女は槍を主武装としており、錯覚で傷を負うレベルの幻術によってセナを苦しめた。槍の扱いも巧みで、かなりの苦戦を強いられた戦闘だった。

 討伐報酬は【リムリスの指環】だった。

 デスペナルティ数、五回


 第四階層守護者【鋭き風のトゥータ】

 彼は短剣を主武装としており、狩人としての技能を修めていたので狩人対決となった。密林で互いに存在を隠しつつ戦うのはいい訓練になったが、セナ以上の隠密能力を持っていたため神経をすり減らす戦いだった。

 討伐報酬は【トゥータのアンクレット】だった。

 デスペナルティ数、零。


 第五階層守護者【滾る炎のアルバート】

 彼は片手斧を主武装としており、ほぼ全ての攻撃に強烈な炎属性が付与されていた。掠るだけで大火傷必至のアーツは疫病すら焼き尽くす威力だったので、とても苦戦した。

 討伐報酬は【アルバートの指環】だった。

 デスペナルティ数、三回。


 第六階層守護者【煌めく光のジゼル】

 彼女は細剣を主武装としており、目にも追えぬ素早さを誇っていた。耐性面も万全で、搦手が使えない単純な実力勝負に持ち込まれたため、セナは何度もデスペナルティを負うことになった。

 討伐報酬は【ジゼルの耳飾り】だった。

 デスペナルティ数、一八回。



「もう相手したくない……」


 現在、第七階層へ上がる階段の前で、セナは大の字になって寝転んでいる。

 ジジ並とは言わないが、とてつもない実力者相手ばかりだったのだ。セナとて疲れるし、相性面からも戦いたくないと思うのは当然である。


 レギオンは傍らでしゃがみ、不思議そうにセナの様子を窺っていた。

 がばっと起き上がったセナはレギオンに飛びつき、勢いのまま押し倒す。床が硬いので寝心地が悪かったのだ。

 そのままレギオンを枕のようにするセナだが、思っていた以上に快適ではなかったので、諦めて立ち上がり、攻略を再開する。


 さて、このシャリアの魔塔は一つの階層が前半と後半に別れており、これまで通りなら次は前半……迷路であるはずだ。

 だが、階段を登り切ったセナは迷路に辿り着かなかった。あるのは守護者のいる部屋と同じ、途轍もなく広い空間である。

 奥の方にはなぜか生活感溢れる家具や道具が散乱していた。


 部屋の中央には、これまでと同様に武器が突き刺さっている。遠目からでも長杖だと分かる。

 ならばまた守護者と戦うのだろうか。

 セナは武器に手を添え、いつでも戦闘に入れるように準備する。


「――まだ武器を握らなくても大丈夫よ」


 すると、どこからか声が発せられた。アゼムたちの響くような声ではなく、普通の人の声である。

 家具の一つ……寝台から身を起こした女性が、欠伸交じりの声でセナに語りかけたのだ。


「ちょっと待ってて貰える? ……あの服どこへやったかしら。窮屈だけど威厳はアレが一番なのよね」


 後半は聞かなかったことにした。


「――これでよし。待たせたわね」


 物陰でぱぱっと着替えた彼女は、長杖を手に取り微笑んだ。

 彼女は白を基調とした礼服の上から、同じく白を基調としたローブを羽織っている。神官服のように青色や金色もアクセントとして取り入れられている衣装だ。


「まずは自己紹介をしましょうか。私はシャリア……アグレイアにて七賢人の一人に数えられた者よ」


 シャリアはカーテシーを披露しながら、セナに自己紹介をした。

 セナは少し困惑しつつ、同じく自己紹介をする。


「セナ、というのね。ここにいるということは、私の魔塔に挑戦しに来たのでしょう? 財宝か、力か、知識か……いずれにせよ、私の試練を乗り越えたなら、望むものを与えましょう」


 やっぱり戦闘になるじゃないかと思いつつ、セナは疑問をぶつけてみることにした。


「……あの、試練ってなんですか? わたしはただ、ここに強いモンスターがいるって聞いたから、レベリングを兼ねて挑んだだけなんですけど」


 シャリアは硬直した。

 少ししてから片手を額に添え、困惑する様子を見せる。


「…………もしや、地上には私の言葉が伝わっていないのですか……? 嘘でしょう……? あんなに、あんなに念入りに、釘を刺したというのに、失伝してしまったというの……!?」


 がくり、と膝を突いてシャリアは項垂れた。

 理由はよく分からないが、セナは少しだけ可哀想だと思った。


「……我が弟子ぃ……一体何をしているのですかぁ……バカぁ……」


 遂には涙ぐみ、幼稚な暴言まで飛び出す。

 一体何をしているんだろうと思いつつ、セナはレギオンと顔を見合わせた。レギオンは首を傾げている。

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