86.不思議で神秘的な神像……?
スキル枠を超えた一一個目のスキルとして【無詠唱】を取得したセナは、続いて『宝物の夢』を取り出した。
裏面に謎言語が書かれたあの巻物である。
「(女神様……いやいやいや、それはダメ。ちゃんとした方法で会わないと)」
セナは何でも手に入るという文言に釣られそうになったが、それは女神様も望まないだろうとブレーキを掛けた。
そもそも、こんな紙一枚で呼べるはずがない。
「欲しいもの……欲しいもの……」
実用性を求めるのなら武器だ。今使っている弓はレベル40の頃に自作したものなので、今のレベルとは釣り合っていない。
だが、愛着が湧いているのでそう易々と乗り換える気分になれない。これでもこまめに手入れをしているのだ。
「……あとにしよう」
使用期限があるわけでもなし、セナは未来の自分にプレゼントすることにした。
「確認終わった?」
「終わったの?」
EXPブースターは魔界アルラウネのために取っておくと決めているので、一位報酬の確認は終了だ。
足の上にちょこんと座っているレギオンを撫でると、彼女は嬉しそうに顔をほころばせる。そして、膝立ちでセナをハグしているレギオンは嬉しそうに目を閉じて頬ずりをした。
「水やりしないと」
【魔界アルラウネの苗】をインベントリから出す。
人の頭ほどある、ずっしりとした陶器の苗。時間が経つとかさが減る土から生えているのは、黄緑色の蔓と小さな蕾だ。
水と肥料をやると蔓が動くので、喜んでいるのだろう。
「レギオンも手伝う」
少女のレギオンが粘性のある液体を入れた。
それはガチャから出てきたアイテムの一つで、『完全栄養食(配合調整版)バージョン四:再検証版(最終)(再々調整)』と書かれている。
一体どれが正しい表記なのか分からないが、食べると満腹度が全快し三日間ゲージが減らなくなるという優れもの。
致命的な弱点として、色がヘドロのようで食欲が湧かないのと、無味無臭のくせに嫌悪感を感じる食感なので、セナが一口食べた際には、咀嚼すらせず真顔で数秒間固まった。
こんなものを与えられて喜ぶ者などいないが……植物には関係の無い話である。
実際、栄養面は完璧以上なので、通常の肥料を与えるよりよく動く。
「少し残った」
「でもレギオン食べたくない」
「マスターも嫌な顔してる」
「じゃあレギオンにあげよう」
二人のレギオンは顔を見合わせ、余った分を影で捕食することにした。
人間体の構造は、変化させない限り人間とほぼ同じなので、彼女たちもこれを食べたいとは思わないのだ。
だから、味覚を搭載していない
それからイベント空間で思う存分楽しんだセナたちは、元のフィールドに戻ってくる。
宿の個室からイベントに参加していたため、戻ってくる場所も同じ部屋だ。
「……じゃあ、アレの確認をしよう」
ミニイベントで得た報酬はイベント空間で確認していたが、実は一つだけ確認していないアイテムがある。
それは、レギオンがガチャでゲットした【
詳細を開いても伏せ字ばかりで、読めるのは『とある神官が生涯大事にしていた彫刻。何を象っているのか判る者は、もういない』という最後の文だけ。
しかもテキスト通り、セナの目にもこれの正確な形が映らないのだ。
「どう?」
「レギオンも分からない」
なぞるように触ってみたり、抱きかかえてみたり、影で覆ってみたり、と試行錯誤をしても、得られる情報はつるつるとした石材で作られていることのみ。
視野に入れた途端に形はぼやけ、どれだけ目を凝らしても人型であることが辛うじて分かる程度。
「(神像って表示されているから、神様を象ってるのは間違いないはずなんだけど。やっぱりレベルが足りないのかな)」
ルビで『現在のレベルでは表示できません』と表記されているので、どれだけ工夫しても分からないようになっているのだろう。
「マクスウェルさん……は、教えてくれないかも」
セナはこれが分かる人物としてマクスウェルを思い浮かべるが、彼女がアグレイア七賢人の一人であることを明かした今、素直に答えてくれるとは思えなかった。
「――あ、レギオンちょっとだけ分かるかも」
すると、レギオンが閃いたように言う。
「マスター、ちょっと貸して」
「いいけど、どうするの?」
神像を受け取ると、レギオンはそれを影の中に入れた。
むむむ……と唸りながら集中している様子を見るに、体内でなんとか探っているのだろう。
「……むむ、むむむむむ」
「レギオンとっても違和感ある」
少女のレギオンが集中している傍ら、大人のレギオンはもう飽きたと言わんばかりに遊び始めている。
セナを背後から抱きしめ、無言のまますりすりと体を密着させた。
「……成長してから、スキンシップが多くなったね」
「レギオンは大きくなったから、その分いっぱい甘えたい。だからレギオンはこうやっている」
耳元でそう囁かれると、セナは「元々たくさん甘えてきてたよね……?」と不思議に思った。
それとも、大人のレギオンが増えたから今までの倍以上に甘えたくなったのだろうか……?
――そしてその瞬間、少女のレギオンが弾かれた。
慌てて飛び出すセナだが、レギオンはなんともない様子で着地する。
「……レギオン、ちょっと分かった」
落ちてきた神像をキャッチすると、彼女は少し自慢げな表情で言った。
「これと似た雰囲気、マスターからも感じる。教会でもこう……じわじわ? ってなるやつ。すごく遠くて近い場所から来てて、辿ってみたら追い出された」
何を言っているのか要領を得ないが、レギオンはこの神像の手がかりを掴んだらしい。
曰く、セナと似た雰囲気が神像からも発せられており、それはよく分からない場所に繋がっているそうだ。
更には、辿っていたレギオンを追い出せる程度のナニカがあるらしい。
「…………女神様?」
しかし、セナは、直感で理解してしまった。
これは女神様の神像であると。セナが信仰する“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”を象った神像なのだと。
名称もフレーバーテキストも伏せ字だらけなのは変わらないが、どの神を象った神像なのかを理解したセナは、途端に平伏したくなる衝動に駆られた。
神像を恭しく机に置き、自らは床に膝を突いて祈りの姿勢を取る。
何も起きない。だが、感じる。
視られている、そこにいると。
教会で祈っている時より濃密な気配が、神域にいたときに感じていたあの神威が、目を閉じて祈りを捧げると感じられるのだ。
「あっ――」
「きゃん!?」
数分か、それとも十数分か、セナは目を開け立ち上がる。
レギオンは不思議そうにセナの顔を覗き込んでいたので、立ち上がった勢いで頭をぶつけられていた。
「あ、ごめん……」
「だいじょうぶ、レギオン平気」
「レギオンちょっと痛い。レギオン嘘つかないで」
大人の方はともかく、少女の方は鼻を抑えているので、痛かったのは事実だろう。
素知らぬ顔をする大人レギオンを、少女レギオンがジト目で見つめる。
セナは少女の方の頭を撫でてやりながら、『個性的になったなぁ……』としみじみと思うのであった。
少なくとも、出会った頃のレギオンより自由度が増し、情緒が育っている。
セナはその様子に、なんとも言えない、暖かい感情を抱いた。
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