105.新しい武器を作ろう!
エルドヴァルツ帝国の帝都ヴォルドレクシーは、合理性に基づいて設計されている。
知識のある人が見れば、区画ごとに要塞化できる構造だと気付くだろう。これは外部からの侵略に対抗するための最終手段であり、市民の安全を守るためのものである。
セナはそんな街の大通りに突っ立っていた。
「――都会だ……っ!」
平坦に舗装された地面、画一化された土地に建てられた家屋、縦横無尽に走りながら規則性を保つ路地。更には、車道と歩道が明確に分けられている。
どれ一つ取ってもこれまでの街とは比べものにならないほど洗練されている街並みに、セナは感動すら覚えていた。
なにせ、近代的な発展を遂げている街なのだ。リアルの街並みを拝めない彼女からすれば、ここは紛れもない都会である。
セナはレギオンを連れて、街並みを堪能するように歩く。
首都だけあって、通りに並ぶ店はどれも専門店である。衣服の専門店、防具の専門店、武器の専門店、杖の専門店……数えればキリが無い。
しかし、そのどれもがNPC基準であるため、プレイヤーからすれば少し物足りないと感じるだろう。
「(そろそろ新しい武器を作らないと……)」
後回しにしていたが、メイン武器の性能が店売りに並ばれてしまっている現状だと、さすがに拙いとセナは思った。
素材は潤沢にあるため、どこか借りられる場所がないか探すことにする。
「あの、生産しても怒られない場所ってありますか?」
冒険者組合の窓口でそう訪ねたセナは、自分で使う武器を生産するためにレンタルできる場所を探している旨を伝える。
受付嬢は少し逡巡したが、お金さえ支払えば使用可能な工房があることを教えた。
そこは職人街の通称で呼ばれる、多種多様な工房が建ち並ぶ区画であるため、昼夜を問わず騒音が鳴り止まない酷い場所なのだ。
少女をそんなところに行かせていいのか、と悩んだ受付嬢であるが、よく見れば狩人風の装備を身に付けているため大丈夫だと判断した。
セナは教えられた場所に向かう。
見習いが作ったあまり品質が良くない装備や、手慰みに作られた奇妙な物品が並べられたバザーを通り抜ければ、そこらじゅうから騒音が聞こえる区画に辿り着いた。
入り口の上や横に掛けられた簡素な看板がなければ、どんな工房なのかの見分けすらつかない。
その中に、一際大きな工房がある。と言っても、せいぜい二倍程度の大きさしかないが、そこが誰でもレンタルできる工房らしい。
中に入り受付を済ませると、番号札の付いた鍵を渡される。生産スペースは個室になっているらしい。
「……よし。私は作業するから、レギオンは自由にしてていいよ」
インベントリから生産キットを展開し、使用する素材も取り出したセナは、さっそく生産作業を開始した。
「(まずは世界樹の枝をいい感じに削って……削りかすは取っておこうかな)」
シャリアの魔塔で得た素材の一つ、世界樹の枝は木材の中で最も入手が難しいものである。
枝の状態でもかなり太いので、半分に割ってから握りやすい大きさまで削り、熱湯に漬けて弓の形に曲げた。
そして、【調合師】のスキルで作成した特殊な薬液に漬けておく。
次は弓の弦だが、アリアドネーの糸を撚り合わせたモノを使用する。これもシャリアの魔塔の報酬で得た素材なので、入手方法はかなり難しい。
それから装甲等を作成したら、薬液に漬けておいた弓を取り出した。
「(どんな効果が付くかな……)」
薬液に漬けられていた弓は濃い紫色に染まっている。
この薬液は重ねがけした《プレイグポイゾ》を《マナエンチャント》で『古・上級ポーション』に移したものなので、普通なら触れるだけで劇毒と疫病に冒されるのだが……セナからすればただのポーションだ。
時間を掛けて乾燥させると、濃い紫色に染まっていた表面は淡い色へと変化する。
しっかり乾いたのを確認したセナは、糸を取り付けてから両端にカバーを取り付けた。
それから装甲も接着し、使い心地を確かめたセナは、その完成度に満足する。
「あとは……狙い通りのスキルが付いていればいいんだけど」
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『プレイグ・ボウ』
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の力の一端が込められた弓。制作者の腕が未熟なため、素材の性能が十全に活かせていない。
装備スキル:【命中補正】【疫病付与・小】
DEX+三〇〇%
MP+二〇〇%
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詳細を確認すると、狙い通り装備スキルが付いていることが分かった。
フレーバーテキストに素材の性能が活かせていないとあるが、素材が素材なので元々完璧に活かせるとは考えていない。
今の装備より性能が良ければいいのだ。
「……まあ、いいかな」
最後に“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の紋様を彫り入れてから、装備を切り替えるセナ。
ステータス補正も高いため、これまで以上に俊敏に動けそうだと感じる。
ちなみに、暇だったレギオンはずっとセナの作業を邪魔にならない範囲で観察していた。
が、大人レギオンの方は飽きたのか足下で寝入っている。
すやすやと影にくるまっている姿は、愛嬌すら感じるだろう。
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