102.帝都への道中
翌日、セナは身支度を調えてリカッパルーナを出立した。
前日の夜に生産したアイテムはただの中間素材なので、インベントリの奥に仕舞ってある。
……さて、エルドヴァルツ帝国の帝都ヴォルドレクシーに行くには、ラムダシーアとニューオルザを経由する必要がある。
ちなみに
ギリシア文字の順番通りに進まなくてはいけないルールは無い。なので、μを経由する必要は無いというわけだ。
ドレスの製作に五日、輸送に二日掛かるので、セナは一週間ほどゆったりしつつ進むことにする。
もちろん遭遇するモンスターは全て自爆攻撃で轢き殺していく。レベル100目指して経験値を稼がなければならないからだ。
そして、移動中は様々なイベントと遭遇することになる。
「金目の物さえ差し出せば命だけは勘弁してやんよ!」
……と、道を塞いで無法を働く盗賊に兎を放り投げて自爆させたり。
「有り金全部置いていきなァ!」
……と、襲い掛かってきた盗賊を疫病漬けにして斃したり。
「カシラの仇!」
……と、逆上する盗賊をレギオンが影に沈めて捕食したり。
哀れなことに、セナたちをか弱い女性と判断した盗賊共は尽く返り討ちにされたのだ。
……神が実在し、その加護を賜ることができる世界といえど、信仰のために強さを求める聖職者や冒険者の上澄みを知らずに、堕落して盗賊業を始める者はいる。
彼らは旅人を数で襲うことで強奪を行うが、自分たちが返り討ちになる可能性を思いつかないので、対人戦闘が得意な者に討伐されては金に換えられていたりする。
つまり、実力者からすれば盗賊はネギを背負ったカモ同然なのだ。
♢
ラムダシーアに到達したセナは、道中斃してきた盗賊を衛兵に引き渡して報酬を獲得した。
二〇万シルバーを少額だと感じるぐらいには、セナの金銭感覚は麻痺している。
「この街は料理が発展してるんだって」
「っ、レギオンあれとあれとあれ食べたい!」
店先では常に料理が行われており、その香ばしい匂いはレギオンの食欲を大いにそそった。
通りに面しているからか、店先で販売されているのは定番の串焼き肉から始まり、たこ焼きもどきやタコスなど、手に持って食べられる料理がメインである。
海産物も少しだけ見掛けるが、そちらは輸送コストが高いので割高な価格となっていた。
セナは教会に寄って祈りを捧げたあと、未だ食欲が収まらずにいるレギオンのために店々を回る。
「美味しい美味しい……もぐもぐ」
「(……一気に三〇万シルバーも使っちゃった)」
単体ならともかく、群れそのものを満腹にすることは不可能だ。
レギオンがその気になれば、彼女の食事は一生掛けても終わらないだろう。
食べても食べても群れは還元された栄養を基に拡大していくため、イベントで荒稼ぎしたセナの財布でも無理がある。
なので、さすがにこれ以上はダメだとレギオンたちを静止した。
ゲーム的に考えるならば、お金は幾らあっても足りなくなる。レベルが上がるにつれてインフレが加速するからだ。
貯蓄は基本である。
♢
ラムダシーアで宿をとった後、セナはニューオルザに向かって出発した。
道中トレイン狩りをしていたので、従魔たちもそれなりの経験値を獲得してレベルアップをしている。
その結果、ホーンラビットはジャッカロープに、ヴォーパルバニーはヴォーパルキラーに、グレーターセンチピードはギガントセンチピードにそれぞれ進化した。
ジャッカロープは兎の頭部から鹿の角が生えたモンスターだ。尖った角を失った代わりに、ステータスが全体的に上昇している。
ヴォーパルキラーは手足の関節に毛が硬質化した刃を持っており、より凶悪な暗殺方法を手に入れたモンスターだ。
ギガントセンチピードは……図体がデカくなっただけである。甲殻がかなり頑丈になったので、タンクとしては優秀だろう。
そして可哀想なことに、進化しても彼らの待遇は何も変わらない。
モンスターのヘイトを集め、処理しきれなくなったら自爆させられる。
「効率上がったからレベリングが少し楽になったね」
従魔の苦労は何も考えない。
雑魚モンスター程度なら対処できる実力を付けてしまった彼らが悪い。
ステータスが上昇したので、自爆攻撃の威力も底上げされているのだ。
なので、セナがわざわざ手を出さずとも、従魔自身の奮闘と自爆で片がつく。
ニューオルザの門番から
「くれぐれも、街の中で問題は起こさないでくれよ」
そう言われるのも慣れてしまった。
ともあれ、ニューオルザには問題無く入れたので、二日ほど時間を潰してからヴォルドレクシーに向かおうと、セナは考える。
ラムダシーアで耳にした話だが、どうやらこの街にはカジノがあるらしい。
それも、様々なゲームで遊べる超巨大カジノだ。
首都のすぐ近くに建てられた賭博の街なので、どの街にもある組合や教会を除けば、宿屋とカジノばかりが目につく。
また、案内所の看板を軒先に掲げた店も幾つかある。
セナは煌びやかな様相の街並みに圧倒され、お上りさんのように硬直した。
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