114.上位種の出現
螺旋階段を降りていく。
緩勾配であるため一周するだけでもかなりの距離を歩く必要があり、戦闘も高頻度で起きるため時間が掛かる。
レッサーデーモンは多くとも五体、平均すると三体程度の数で徘徊しているため、苦戦はしないが楽勝でもない作業をしなければならなかった。
経験値自体は美味しいのが唯一の救いだろう。
「レギオン、大丈夫?」
「ん、平気」
「でもメンドクサイ」
徒歩で一時間ほどの距離に設置されている小部屋が無ければ、ずっとゲーム内に潜っていられるセナでも休憩のためにログアウトを考えていただろう。
あの酷く退屈で辛い現実を突きつけてくる空間も、終わりが見えない螺旋階段を休憩無しで降り続けるよりはマシであった。
「らー……」
ダンジョン内ではずっと大人レギオンに運ばれていたラーネも、代わり映えのしない景色と作業のような戦闘が続けば飽きるし疲れる。
満腹度を回復するための糧食を囓りつつ、セナは時間を確認した。
「(もう深夜になってる……さすがに寝ないとキツいかな)」
さすがに徹夜して攻略するのは無理なので、アラームをセットしてセナは就寝する。警戒と迎撃はレギオンに任せ、兎を枕代わりにしている。
運がいいことにアラームが鳴るまで特に問題は起きなかったようで、セナは頭が冴えるまで軽い運動を行うことにした。
それから小部屋を抜け、再び螺旋階段を降り始める。
「――止まって」
レッサーデーモンを斃しつつ進んでいる最中、レギオンが足を止めて迎撃態勢を取った。
セナも弓を構え、いつでもアーツを放てるように警戒態勢を取る。
「レッサー、じゃないみたいだね」
ゆっくりと登って来たソレは、レッサーデーモンを上回る体躯を持っていた。
全長は二メートルより少し大きいぐらいだが、筋骨隆々な肉体はレッサーデーモン以上の力強さを感じとれる。
この二点しか違いは無かったが、レッサーデーモンとは比較にならない強さを持っているのは明らかだ。
「《プレイグシュート!》」
セナは様子見を兼ねてアーツを放つが、やはり病毒に冒される様子は無い。
それどころか、矢を抜いた途端に傷口が修復されている。
「(回復系のスキルがあるのかな……)」
レッサーデーモンとは違って、再生能力を保有しているようだ。
ただでさえ状態異常が効きにくいというのに、時間を掛けると与えたダメージが回復されてしまうのは厄介にすぎる。
これがスキル由来か、それとも種族特性の再生能力なのかは分からないが、ここからは本気で挑まなければならないようだ。
「……サポートするから、メイン火力お願い」
「分かった。レギオン頑張る」
セナはレギオンに前衛を任せ、自身は距離を取って矢を番える。
病毒や欠損付与で相手を狩り殺すセナではあるが、単純な与ダメージだけならレギオンのほうが優秀なのだ。
セナは狩人であり、相手の取れる手段を制限して一方的な戦いを強いる。レギオンはモンスターであり、高いステータスと特殊能力で相手を蹂躙する。
レベルが上がったことで、それぞれの得意分野が目立つようになった。
「(腕と足使いたい)」
「(翼も使っていいよ。レギオンはマスターと一緒に援護する)」
「(じゃあついでに尻尾も貰う)」
瞬時に役割分担を決め、少女レギオンが両腕と両足を変化させて突撃する。
それはドラゴンの腕と足であり、レギオンは踏み込むたびにだんだんと加速していく。
距離を詰める僅かな時間で翼と尻尾も生え、それらには鋭利な刃が追加されている。
「ちょっと強い程度じゃ、レギオンには敵わないよ」
レギオンの爪はグレーターデーモンの肉を容易く裂き、傷口からは青色の血液が流れ出る。
そして、セナはその傷口に《プレイグシュート》を叩き込んだ。
強靭な肉体があっても体内に病毒を叩き込まれてはレジストできないらしく、グレーターデーモンの動きは精細を欠き始める。
「ら~♪」
そこにラーネの歌が響く。
味方にはバフを、敵にはデバフを与える歌は、両者の差を更に広げる。
けれど、それでもグレーターデーモンの攻撃は脅威になり得る威力を秘めていた。
「むむむ……レギオンの影じゃ止められない……」
影から発生する腕ではグレーターデーモンの膂力を上回れないようで、デバフと状態異常で本来の力を発揮できないというのに、グレーターデーモンは影の腕をちぎるように無力化する。
「……兎さん、自爆」
レギオンだけでは斃すまで時間が掛かると判断したセナは、ジャッカロープの首根っこを掴んで思いっきり投擲した。
このダンジョン内では枕以外の用途が無かったため、油断していたジャッカロープは空中でジタバタと藻掻く。
しかし、現実は残酷である。
グレーターデーモンに直撃したジャッカロープは、抵抗虚しくそのまま自爆した。
ヴォーパルキラーも油断していたので、目の前で起きた惨劇に怯えて硬直している。
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