28.最強のキメラ、レギオン
薄暗い部屋の中、セナとレギオンは激闘を繰り広げる。
レギオンの攻撃は影から伸びる触手のような物体が中心で、本体らしき少女はその合間に格闘戦を仕掛けてくる。
セナはそれを迎撃しつつ、状態異常を盛りながら欠損を狙っているが、あまり芳しくない。
「(……注意しないといけないのは影のほうかな。パンチとかはあまり怖くないし、AOEが影にしか発生しない)」
視界に表示されるAOEが影による攻撃だけなのもあり、セナはレギオン本体の攻撃を油断さえしなければ大丈夫と結論づける。
発生するAOEも直線形ばかりで避けやすいものばかりだ。
「何をしているレギオン! 早くそいつを始末しろ!」
「(あの人いつになったら死ぬのかな)っと」
首を心臓に突き込まれた刺突を躱し、流れるような動作でセナはその影を斬りつける。
しかし手応えは無い。
「……あっ、そうだ。《テイム》」
「っ」
ふと、セナは目の前のこれがモンスターならテイムできるではないかと考えた。
ボスモンスターなら戦闘開始時にアナウンスが流れるが、レギオンはアナウンスが流れず初手が不意打ちだったため、システム的には普通のモンスターと変わらないはずだと。
それを裏付けるように、ほんの一瞬だがレギオンの体が硬直した。
つまり、レギオンはテイム可能なモンスターと言うことだ。
「――貴様如きの技でこのレギオンを従わせることなど出来るわけないだろう! 我らの研究成果である魂縛の鎖があって初めて服従する凶悪なモンスターなのだからな!」
体を冒されながらも自慢げに語る大主教を余所に、セナは何度もテイムを試みている。
生きているのが不思議なぐらい重篤化しているはずなのにまだ意識があるのは根性の賜物か。
しかし、ずっと
「(あっちはこれでよし。……鎖ってどこにあるんだろ)」
自慢をするのはいいが、敵に語っていてはわざわざ弱点をバラしているようなものだ。
セナは特段優れた身体能力の持ち主ではないが、反射神経は良いとジジに褒められている。動かない的を狙うのは朝飯前だ。
レギオンは大主教が死んでも攻撃を止めない。
やはり従魔ではなく道具で無理やり従わされているだけなのだろう。予め指示された命令通りにしか動かず、主が死んでも命令を遂行するまで停止しない。
そんな道具のような印象を、セナはレギオンから感じる。
「(やっぱり定石通りHPを減らさないと確率は低いんだ。じゃあ、もう少し削っておこう)」
とはいえ、何をするにもまずはHPを削らなければならないし、テイムするなら魂縛の鎖とやらも壊さないといけない。
レギオンの今のHPはやっと三割削れた程度だ。
「……レギオンは、もっと、大きく、ならないと」
攻防を続けていると、小さい声でレギオンが言葉を発した。
度重なるテイムで支配が揺らぎ始めたのか、それとも……
「《クリティカルダガー》!」
ただ、喋ったところでモンスターであることには変わりないし、セナの態度が変わることもない。
着実にレギオンのHPを削っていく。
「(たくさん攻撃してるのに動きが変わらない……精度は落ちてるけど、そっちはテイムを使った影響だろうし)」
戦闘が始まってから一時間弱、従魔の自爆特攻を交えつつ攻撃しているが、レギオンの動きが止まる様子は無い。
HPバーの減少量から察するに、莫大なHPを持っているのだろう。見た目と中身がまるで合っていないとセナは思った。
しかし、それにしても手応えがなさ過ぎる。
セナのステータスは装備の補正も相まって、レベルの割にかなり高い。
周辺の街の名前からして、このダンジョンやクエスト自体ゲームの序盤に位置づけられているはずだ。
なのに、これだけのHPがあるモンスターが配置されているのは少々おかしい。
「(もしかして、ギミック解かないとHPが減らないようになってるのかな?)」
現在のレギオンのHPは五割ちょっと。
一対一とはいえ一時間以上戦っているのに、たったこれしか削れていない。
「(ギミック……やっぱり鎖が先かな。あるとしたらあの影の中だと思うけど)」
レギオンの足下には影が広がっている。その中に鎖があるとすれば、今まで見つからなかったのも頷ける。
三連続で発生したAOEを避け、セナはレギオン本体ではなく影のほうに《クルーエルハント》を放った。
すると、短剣はどぷりと影の中に沈み、金属に触れた感触が返ってくる。
「……ビンゴ!」
「レギオン、は、もっともっと、大きく、強く……ならないと……!」
琴線に触れたのか、それとも魂縛の鎖の効果が減じたのか、レギオンがよりはっきりとした声を発した。
そして、影が膨張する。
セナの視界はAOEで埋め尽くされ、次の瞬間、影の中から腕のようなナニカが大量に何本も生えてきた。
その真っ黒な腕は壁を掴み、天井を掴み、部屋を破壊していく。大主教の死体は巻き込まれて握りつぶされた。
「《キャスリング》! そして自爆!」
部屋の外で待機させていたグレーターセンチピードと位置を入れ替え、即座に自爆させるセナ。
レギオンがいる部屋の中は爆炎で埋め尽くされ、逃げ場を求めた爆風が部屋の外に勢いよく吹く。
セナの体が吹き飛ばされるほどの突風だ。
――レギオンのHPは、まだ三割残っている。
しかし、爆風と一緒に金属の欠片が幾つも飛ばされてきた。それは鎖の一部だったり枷のような破片だったり、魂縛の鎖の残骸であるのは明らかだ。
「そろそろいいよね。《テイム》」
「……レギオンは、もっとたくさん、大きくなりたいです」
テイムが弾かれる。
しかし、レギオンは動かない。
「……レギオンは、まだまだ小さいです。たくさんたくさん大きくならないと、レギオンは強くなれないです。でも、レギオンだけじゃレギオンは大きくなれないです」
傷だらけのレギオンが顔を上げる。
能面のような無表情で、両目はどこか遠い場所を見ているように思える。
「じゃあ、わたしのとこに来て。わたしはここの人達じゃ比べものにならないぐらい強い人も知ってるし、その人に勝てるぐらい強くなりたいから旅をしているの」
セナはなんとなく、この会話に成功すればテイムできるのだろうと感じる。あの戦闘を熟さないと発生しない、特殊なイベントだと考えたのだ。
「……レギオンを、大きくしてくれるですか?」
「うん、強くなって。そうしたらわたしの力にもなるから」
レギオンは少し下を向き、また顔を上げる。
セナの身長より小さな体を引きずるように歩き、レギオンはセナの前に立つ。そして、何かを求めるようにじっとしている。
「……《テイム》」
《――クエスト:コルタナ地下遺跡の調査を特殊クリアしました》
《――ユニーククエスト:レギオンは大きくなりたいが発生しました》
従魔の一覧にレギオンが加わり、クエスト達成と発生のアナウンスが流れた。
リザルトとしてかなりの量の経験値が入り、レベルも格段に上昇する。
あとはガンマリードに戻るだけ……。
「……あ、ボスモンスターは別でいるんだっけ」
レギオンが強すぎてコルタナ地下遺跡本来のボスモンスターを忘れていたセナは、外に出たあと改めてダンジョンに潜って討伐した。
レギオンと比べるととても弱く感じた。
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『セナ』レベル40
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒
└【疫病の加護】
ジョブ:“疫病と薬毒司りし女神の慈悲無き狩人”
└《クルーエルハント》
スキル:
【テイマー】 【アーチャー】
【短剣術】 【投擲】
【毒化】 【魔力付与】
【鷹の目】 【採取】
【調合】 【木工】
アーツ:
《テイム》《自爆命令》《キャスリング》
《ペネトレイトシュート》《プレイグポイゾ》
《マナエンチャント》《ホークアイ》
《コレクション》《プロダクション》
《クリティカルダガー》《投擲》
従魔:
『ホーンラビット』レベル34
『ヴォーパルバニー』レベル32
『グレーターセンチピード』レベル33
『レギオン』レベル50→レベル10
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