75.セナVSあまかけ

 転移が行われる。セナは一瞬で観客席から舞台上へと移動した。

 転移する一瞬でレギオンは影の中に引っ込んでいる。


 大勢の人の視線に晒されることで、お目々がぐるぐるするほど緊張したセナは、目を閉じて深呼吸を繰り返す。


 しかし今はイベント中、悠長にしていられる時間は限られている。

 セナはレギオン以外の従魔を呼び出し、弓を構えた。そして、意識的に思考を切り替える。

 観客席は意識から排除し、目の前の相手を人ではなく獲物と認識するのだ。


《――第二回戦、第四試合を開始します》


 アナウンスが流れる。

 セナは従魔たちを突撃させ、開始早々に自爆させた。


「はあっ!? 初っ端からかよ!」


 あまかけは自爆攻撃をなんとか防いだが、片手盾では三体分の自爆攻撃に耐えられず、かなりのダメージを受けた。

 だが、さすがは高レベルプレイヤー。スキルを駆使して即死を免れている。


「噂には聞いてたけど、マジで自爆させるのな」

「(初手で斃すのは失敗。なら、攪乱して少しずつ削ろう)」


 セナはあまかけの言葉に耳を貸さず、狩人として行動を起こす。

 まず、歩法を用いて相手の視界から消えた。


「っ、消えた……!? 止まってるわけにはいかねぇか……!」


 あまかけは透明化できるアーツを使われたと判断し、舞台上を走り始める。


「……《ボムズアロー》」


 しかし、あまかけの動きから先を予測したセナは、着弾点で爆発するアーツを繰り出した。

 この舞台上では従魔の強制復活はできない。なので爆風と、それによって生じる土煙を目眩ましにしたのだ。


「《クルーエルハンティング》」

「《ブースト》!」


 矢継ぎ早にアーツを発動し、煙の中に突進したセナ。

 あまかけは一時的に速度を上げるアーツで煙の中から脱出したものの、突如現れた短剣によって左手首を失った。


「つぅ……盾ごとかよ。おっかねぇ」

「……《ボムズアロー》」


 再び視界が遮られる。

 この隙に乗じて再度攻撃を仕掛けてくるのかとあまかけは考えた。


「《エンチャント・ウィンド》! 《リリース・スラスト》!」


 だからこそ、即座にアーツを使い、目眩ましを蹴散らす。

 彼が使用したのは対象に風属性を付与する魔法と、付与した属性を解放するアーツだ。これによって発生した突風により、煙が散らされたのだ。


 だが、そこにセナの姿は無い。


「《クリティカルダガー》」

「っ、いつの間に……!?」


 淡々と、獲物を屠るようにセナは動いている。

 獣相手でも同じ手が通じないことはジジから教わった。

 獲物は予期せぬ行動をすることもジジから教わった。

 だから、最悪を想定したうえで、狩人としての得意を押し付けるのだと。


 《ステルス》を用いて煙を迂回したセナは、あまかけの背後から短剣を振るっていたのだ。

 そして、その刃は的確にあまかけの左足を捉える。

 《クルーエルハンティング》の効果が上乗せされた攻撃は容易く足を斬り飛ばし、彼の体勢を崩した。


「けど、近距離なら――」


 片足を切断されても、アーツによる威力補正があれば部位欠損は狙える。

 首や心臓なら、一撃でHPを全損させることすら可能だ。

 対してこちらは、まだ部位欠損で済んでいる。出血によってHPは減少していくが、首や心臓に当てれば相手が先に斃れる。


 一瞬で思考し、それしか無いと考えたあまかけは、体勢が崩れる勢いすら利用して剣を振り下ろした。


「……これで、詰みです」


 しかし、その剣はセナに当たらず、泣き別れした腕とともに宙を舞う。


「は……?」


 どさり、と顔面から地面に倒れるあまかけ。

 彼の右腕を斬り飛ばしたのは、【アゼムの刃】である。《クリティカルダガー》によって片足を斬り飛ばし、【アゼムの刃】によって発生した追撃が右腕を斬り飛ばしたのだ。


 通常であれば、この追撃にそんな威力は無い。しかしセナには、セナのジョブにはそれを可能とする力がある。

 それが《クルーエルハンティング》。効果時間中、斬属性攻撃全てに欠損付与の効果をもたらすジョブ専用アーツであり、【アゼムの刃】はその効果が適用されているのだ。

 所謂、シナジーというものである。


 右腕は肘から先を、左腕は手首を、左足は太股の中ほどから下を失っているあまかけに、抵抗する手段は無い。


 しかし、それでもセナは警戒を怠らない。

 せめて一矢報いる……なんて考えが甘いとジジから教わった通り、彼女は最期のあがきを許す隙なんて与えない。

 不用意に近づかず、淡々と矢を射続ける。

 急所と成りうる場所目掛けて、アーツを繰り出していくのだ。


 相手が人だろうと、狩りであるならば容赦せず狩る。ジジに叩き込まれた狩人としての心構えが、セナをそうさせている。


《――第二回戦、第四試合の勝者はセナ様です》


「……これでよし」


 執拗に矢を打ち込まれたあまかけのアバターが消え、セナの体は観客席へと転移した。自爆させた従魔も、転移に伴い復活している。

 次は準決勝である。

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