76.キルゼムオールVS剣士ああああ
準決勝となる第三回戦は三日目に行われる。
二日目の残り時間を再びガチャに費やしてセナとレギオンは、前日と比べるとやや微妙な結果を突きつけられ、ちょっと残念な気持ちになりつつ就寝した。
《――第三回戦、第一試合を開始します》
三日目の正午、キルゼムオールと剣士ああああの戦いは、とても白熱していた。
《
刃にさえ当てられなければ、アーツの効果が発揮されないことを見抜いたのだ。
「……チッ、やりづれぇな」
キルゼムオールは幾つかの武器を持ち替えて戦っている。メイン武器は一つのみ、サブ武器を考慮しても三つが限度だが、彼は五つの武器を使用していた。
相手や状況によって生じる短所を、別の武器の長所で補う戦い方だ。
「(ジョブ効果で装備数が増えているのかな……?)」
装備していない武器は、ステータス補正の存在しない道具として扱われる。とうぜん、装備スキルも発揮されない。
しかし、彼の身体能力を見る限り、とてもそうとは思えないのだ。
「おいテメェ、テメェが強いのは認めてやる。さっさと本気でこいよ」
「……僕は、そこまで強くないんだけどね」
困ったような顔で、剣士ああああは再び構えを取る。
彼が扱う武器は長剣だが、店売りの量産品ではない。それを知っているのは彼と、彼が属する検証班だけなのだが……キルゼムオールは打ち合った感覚からただの長剣ではないと察している。
そして観戦しているセナも、どこか異様な雰囲気を感じ取っていた。
「ユニーククエストは基本的に一期一会、一回限りかつ再受注不可だ。専用ジョブ然り、このゲームにはそういったものがたくさんある」
「あ?」
「中には、特別な装備を入手できるものもあってね。僕のこの剣はその一つ……銘を『水の精霊剣』と云う」
すると、剣士ああああが持つ長剣から水滴が流れる。
ぽたぽたと垂れる水滴は水量を増し、地面に落下せず彼の周囲に滞空した。
「《アクアエッジ》」
「っ、魔剣士か……!」
「最初はただの剣士だったんだけどね。シナジーのためにも、スキルを取り直したんだ。《ウェイブスラッシュ》《アクアランス》」
剣士ああああは魔法を併用しながら攻撃を仕掛け、キルゼムオールを舞台の端に追い込んだ。
水属性の魔法は攻撃も防御も回復もできるバランス型――悪く言うなら器用貧乏――なので、他の属性と比べるとダメージ量が低く設定されている。
しかし、それは通常であればの話だ。
大量の水による質量攻撃であれば、基礎パラメータなんぞ無視して大ダメージを叩き出せる。
「《スピア・オブ・ウンディーネ》!」
直径一メートルはある槍が生み出され、キルゼムオールを襲う。まともに食らえば、大ダメージどころか退場すら予想できるだろう。
「《ウェポン・オーバーブレイク》! 《
だが、彼は避けなかった。武器を構え、真っ正面から受けて立つ姿勢だ。
使用する武器は大剣で、上段に構えている。
「ハ、ァアアアアアアアッ!」
勢いよく振り下ろした大剣は《スピア・オブ・ウンディーネ》と拮抗し、数秒掛けて食い込んでいく。
そして、モーセの奇跡が如く両断し、斬撃の余波で地面に亀裂を入れた。
「っ、武器破壊を代償に……!?」
「まだまだ替えはあるからなぁ! 《乾坤一擲》、《
《スピア・オブ・ウンディーネ》と相殺した大剣は砕けたが、キルゼムオールにはまだ四つの武器が残っている。
今度は槍を手に取り、それを《乾坤一擲》というアーツで投擲した。
「(あれ、わたしも修得できるのかな)」
途轍もない速度で飛翔し、避ける間もなく剣士ああああの腹部を貫通した槍を見て、セナはあのアーツが欲しいと思った。
あの速度で投擲できれば、毒入りの瓶をより遠くから放り投げてもダメージを与えられるはずだから。
「ぐっ……、やはり、防御無視の攻撃でしたか……」
《――第三回戦、第一試合はキルゼムオール様の勝利です》
剣士ああああはHP全損となり、退場した。
試合時間は一〇分にも満たないが、どちらもトッププレイヤーとして申し分ない実力者だった。
だがやはり、防御を無視して攻撃できるキルゼムオールが、一際目立っている。
真っ正面から相手の攻撃をねじ伏せ、そのうえで勝利しているのだから当然だ。
無論、一番注目を浴びているプレイヤーはセナである。影で狂信者と呼ばれている彼女がどのくらい強いのか、多くのプレイヤーが知りたがっている。
公開されているジョブの時点で多くの推測が飛び交っているため、掲示板の勢いが凄まじい。
「……そろそろかな。次からはレギオンにも手伝ってもらうね」
「うん、レギオン頑張る」
握り拳を作って、胸の前に掲げるレギオン。気合いは十分なようである。
セナも深呼吸をして、転移が行われる前から気持ちを切り替える。周囲の雑音を排し、その時を待つ。
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