74.キルゼムオール

 第一試合:グリムVSアプレンティス、グリムの勝利。

 惜しみなく手札を晒していたため、二回戦で敗退すると予想。たとえ善戦しても準々決勝が限界だろう。


 第二試合:ムラビトVSキルゼムオール、キルゼムオールの勝利。

 速攻で決着が着いたため、手札が殆ど晒されていない。準決勝か決勝まで上がってくると予想した。


 第三試合:クルルVS神風、クルルの勝利。

 純粋な物量によっての勝利だったため、きちんと対策を取れば負けることはないと判断。


 第四試合:剣士ああああVSちよこれいと、剣士ああああの勝利。

 巫山戯た名前に反してプレイヤースキルが高かった。速攻でケリを着けないと面倒な相手だと判断する。また、【アゼムの刃】らしき追撃も発生したため要注意だ。


 第五試合:エムVSまな、まなの勝利。

 突出して目立つ場面はなし。良くも悪くも普通だったので二回戦で敗退すると予想する。


 第六試合:ホルンVSジェイク、ホルンの勝利。

 ホルンが音楽で戦う珍しいビルドだったのもあり、次の行動を予測するのが難しい。この人と戦う時は苦戦すると判断した。


 第七試合:あまかけVSクリムゾン、あまかけの勝利。

 近接アタッカーと術師の戦いは、距離を詰められるかどうかで相性が逆転する。見応えのある激しいバトルだったので、セナも少し興奮した。


「(みんな強いなぁ……)」


 第二回戦が始まるまで少し猶予がある。

 セナはレギオンを連れて、一旦観客席から離れた。人の目の届かない場所に着くと、影の中から大人の方のレギオンも現れる。


「……レギオン、もう一度訊くけど、本当にいいの?」

「うん。レギオンはたくさんいるし、マスターもいるから、どれだけ減ってもへっちゃらだよ」

「……レギオンはたくさんいるから、マスターは心配しなくて大丈夫」


 なんど確認しても二人のレギオンはを問題無いと言う。

 前々から何度もさせてはいたが、レギオンを大切だと自覚してしまった今は少し心が痛いのだ。

 だからこそ、セナは二人の言葉を無碍に出来ない。初めての友達だから、その信頼を裏切りたくないから。


「……分かった。じゃあ、頼りにしてるね」

「「うん、レギオンに任せて」」


 異口同音でレギオンが言う。

 ならばもう止めることは出来ない。セナがレギオンにしれやれるのは、狩人としてレギオンの犠牲を最大活用することと、試合後に餌を用意することぐらいだ。


《――第二回戦、第一試合が開始されます》


 そうして諸々の確認をしていると、二回戦を始めるアナウンスが鳴った。

 セナとレギオンは観客席に戻り、観察を再開する。


 二回戦最初の試合はグリムとキルゼムオールだ。

 大鎌を構えるグリムに対し、キルゼムオールは素手で佇んでいる。背中に幾本もの武器を携えてはいるが、それを手に取る様子は無い。


「――《ソウルリーパー》! 《ディレイスライス》! 《ブースト》!」


 準備時間が終わると、グリムが速攻を仕掛ける。

 キルゼムオールはようやく武器に手を掛け……しかし、抜くことなくグリムを見据えている。


「舐めやがって……《キーンエッジ》!」


 追加でバフを乗せたグリムの大鎌が迫る。

 ……しかし、その刃がキルゼムオールを傷つけることは無かった。


「――ハッ、《皆尽滅殺キルゼムオール》!」


 アーツの宣言と同時に抜き放たれた長剣が大鎌を迎え撃ち、そして大鎌ごとグリムを断ち切ったからである。

 それは、《クルーエルハント》――今は《クルーエルハンティング》だが――に似ていた。

 防御も耐久も耐性もガン無視する問答無用の欠損攻撃、それに近いナニカを感じ取るセナ。


「……は?」


 戦闘が始まって一分すら経たずに決着が着いた。

 一回戦では普通に武器を手に取り戦っていたのに、まるで別人のような戦法である。

 セナはキルゼムオールを危険な相手と断定し、決勝でどう斃すかを考え始めた。

 アレが途中で脱落するはずがない、下手すれば自分が負ける。そんな予感がした。


 続く第二試合、クルルと剣士ああああの戦いは、直前の出来事もあってあまり覚えていない。が、剣士ああああが圧勝したことは覚えている。


 第三試合、まなとホルンの戦いはさすがに思考を中断して観戦した。結論から述べるとホルンが勝利したのだが、重要なのは過程である。


「(あの人、たぶん支援系のアーツを加護かジョブで攻撃に転用しているよね。たしか弦楽器の、バイオリンって言うんだっけ……)」


 正確にはヴァイオリンだが、セナの予想は概ね正しい。

 キルゼムオールの行動が衝撃的すぎて少し混乱していたが、今は目の前のことに集中しなければならない。


「(音楽を司る神々は神話の中盤以降に発生したから、女神様よりずっと後の神格だけど……たくさんいるから把握できてないんだよね。でも、大まかな傾向は分かるから……たぶん、あの神様かな)」


 ホルンが音楽を奏でている間は、攻防一体の領域が形成される。範囲外からの攻撃は空気の振動で防ぎ、範囲内であれば無差別に音の奔流が襲い掛かる、地獄のような一人コンサートだ。


 次の第四試合はいよいよセナの出番である。相手は片手剣を扱うあまかけだ。

 セナの内心を言葉にすると、キルゼムオールやホルンと比べると楽な相手、である。

 油断さえしなければ勝利は間違いないだろう。

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