134.第三回公式イベントのお知らせ

 遂に神威を修得したセナであったが、行使するための条件が満たせないため、スキルを鍛えることが最優先の課題となる。

 アーツは前提となるスキルが無ければ得られず、スキルの熟練度が低くても得られない。

 憑依合身を可能にするためには、【ドミネイトテイマー】の熟練度をひたすら稼ぐしか無いだろう。


 ……スキルオーブや『宝物の夢』を使用して、無理やりアーツを獲得することも考えた。だが、安易に楽な手段を選ぶのは、セナが求める強さから遠ざかる。

 楽して手に入れた力に価値なんて無い。血反吐を吐くほどに鍛え、磨き、その果てに最適化された力にこそ価値がある。

 セナより強い師匠がそう言っているのだ。ならばその通りなのだろう。


 だから、スキルオーブと『宝物の夢』を安易な力のために使うことはしない。

 【使徒化チケット】もそうだ。女神から賜ったアイテムではあるが、すぐに頼るようでは信徒の名折れ。


「――よし」


 なのでセナは、ひたすらダンジョンに潜ってはRTAの如く周回していた。

 スキルを鍛えるため従魔をメインに戦わせつつ、手頃なモンスターがいればテイムして熟練度を稼いだ。

 ちなみに、以前テイムしたゴールドラッシュは冒険者組合に売却済みだが、オークションに出品されるようなのでまだ収入にはなっていない。


「これで二〇周目。あと一〇周したら今日は終わりだね」

「もぐもぐ……」


 そこまで深くないが、モンスターのレベルは高い。そんなお手頃ダンジョンがローグドリー近郊……というか火山内部に存在していたので、ここ数日はずっと潜っている。

 そしてノルマを終えたら街に戻って、納品クエストの報告と余った素材の売却をするのだ。


 これまで以上に効率を重視して周回した結果、この数日でセナのランクはシルバーⅢに到達し、あとは試験さえ突破すればゴールドⅠに昇格できる状態になっている。

 セナのレベルも107まで上がり――レベル100以降はこれまでより必要経験値が多いとはいえ――、新たなアーツも修得した。


「(まだ憑依合身は出来ない……。他のスキルからは便利なのが幾つか生えたのに、どうしてだろ)」


 しかし、結果は芳しくない。

 強くはなっている。成長したのは間違いない。けれど、憑依合身を可能とするテイマー系アーツは芽生えなかったのだ。


「(それに……)」


 ちらり、とお知らせを見る。

 運営から第三回公式イベントのお知らせが届いたのだ。開催期間は翌日の正午から始まり、その一週間後の正午まで。


「マスターどうしたの?」

「次のイベントが始まるんだって。ダンジョン探索みたい」


 イベントの内容を簡潔に纏めると、入り組んだ巨大迷宮を探索して報酬をゲットしよう! というもの。

 PVP要素はあまり無い。むしろプレイヤー同士の協力を前提としているのか、ソロ部門、パーティー部門で報酬が用意されている。


 これまでのイベント同様、専用フィールドからアクセスするようだが、開始時刻にイベントフィールドにいるプレイヤーしか参加できないようだ。

 そして、高難易度ダンジョンよろしく、この巨大迷宮も数日かけて攻略することを前提としているらしい。

 しかも内部には敵性存在が徘徊しているため、下手なダンジョンより攻略は難しい。


 常にログイン状態を維持できるセナはともかく、普通のプレイヤーはログアウトせずに攻略することなぞ出来ない。

 なので、イベントフィールド内でログアウトしたプレイヤーが再度ログインした際、登録した安置の中からログアウト地点に最も近い位置に出現するようになっているようだ。


 さすがに今日中に新しいアーツを獲得し、それの使い心地を確かめることは出来ないだろう。

 予定通りノルマを終えたセナたちは街に戻り、教会でアイテムを捧げてから余った素材を売却する。


 あとは翌日のイベントに備えて寝るだけなのだが、セナはもう一度ステータスを開いた。


====================

アーツ:

《テイム》《ドミネイト》《自爆命令》

《キャスリング》《ライフコントロール》

《視界共有》《思念伝達》《思念同調》

《ペネトレイトシュート》《プレイグシュート》

《ボムズアロー》《アローショット》《チェイスアロー》

《ステルスハント》《罠作成:擬》

《プレイグポイゾ》《プレイグオーラ》

《マナエンチャント》《ハンターズアイ》

《コレクション》《プロダクション》

《クリティカルダガー》《サプライズダガー》

《乾坤一擲》《無詠唱》《詠唱補正》

《ディレイエフェクト》

====================


 この数日頑張った甲斐あって、アーツは以前よりも豊富になっている。


 周辺の小動物や格下のモンスターを強制的に支配する《ドミネイト》に、エリオ辺境伯が使っていた《思念同調》。

 これらは【ドミネイトテイマー】から生えたが、憑依合身には程遠い。


 《アローショット》は高威力の物理拡散攻撃だが、代償として射程が五メートルとなっている。《チェイスアロー》は逆に、威力が落ちる代わりに狙った相手を追跡する矢を放つ。

 《罠作成・擬》はその場で罠を作成するアーツ……ではなく、その場にある物を罠として判定させるアーツだ。

 これら三つが【プレイグハンター】から新たに芽生えたアーツである。


 《プレイグオーラ》は名称の通り、触れただけで疫病をもたらすオーラを纏うアーツだ。次に発動する魔法やアーツのエフェクトを遅延させる《ディレイエフェクト》と組み合わせれば、とても凶悪な初見殺しとなるだろう。


 《サプライズダガー》は不意打ちでのみ高火力を叩き出せるアーツで、《乾坤一擲》は《投擲》が変化したものだ。


「(強くはなってるし、使える手札も増えた。《プレイグオーラ》なんて使い勝手がいいから、普段から発動していてもいいぐらい。だけど……)」


 不安が頭を過ぎる。

 女神に褒められるぐらい成長した自分だが、他の人も同じように成長しているはずなのだ。

 特に、キルゼムオール。


 セナの《クルーエルハンティング》と同じ、防御も耐久も耐性も無視する効果をもたらすバフ、《皆尽滅殺キルゼムオール》をあの男は連発できる。

 一撃ごとに発動していることから持続性は無いのは確定だが、代わりに威力バフに類するものが付いているのは間違いない。


 また、複数の武器種を扱える技量と、徒手でも発動できるアーツを使い、そのうえで戦いそのものへの覚悟が極まっている狂人だ。

 同じ三魔神を信奉する混沌の信徒であり、今この瞬間にワールドアナウンスが流れても不思議に思わないぐらいには、彼の実力はずば抜けている。


「(――ううん、勝つ。次もわたしが勝つ)」


 明日のイベントでPVPをする旨みは無いが、時と場合によっては勝負を仕掛けられることもありえる。


「(一人のあいつより、レギオンたちがいるわたしの方が強い)」


 相変わらず就寝時に密着してくるレギオンらの温もりの中、セナはゆっくりと微睡み、眠りについた。

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