142.都合のいい共闘
「いるな。戦闘中か」
運がいいのか悪いのか、セナたちがミゼリコルデを発見したのは予定していた広間だった。
そこではすでに、ミゼリコルデに攻撃を受けているプレイヤーたちがいる。
「――殺戮機構その五、アクティベート」
「《
先頭に立ってスキルを発動しているのは、第二回公式イベントで戦ったホルンであった。
美しい旋律を奏でながら、ミゼリコルデの猛攻を必至に耐えている。
パーティーメンバーも彼同様、それぞれの楽器を使ってホルンをサポートしているようだ。音楽家系のジョブに就いているのだろう。
「耐えてるんだったら好都合! 《乾坤一擲》《
「《ステルスハント》」
何にせよ、この状況は都合がいい。ミゼリコルデの攻撃を防げるのなら、ヘイトも少しは分散されるだろう。
キルゼムオールは自分の存在を誇示するように、大声でアーツの使用を宣言し攻撃した。
主が戦闘状態に移行したことで、『剣の従者』もオートで戦闘を開始する。
そしてセナは、『剣の従者』の背に隠れて姿を消し、反対方向から奇襲するべく動き出した。
「脅威更新。お久しぶりですね、キルゼムオール様」
投擲された槍を回避して、ミゼリコルデは略式のカーテシーを披露する。
「はっ、そりゃあ指名したからな! 今度こそぶっ壊してやんよ!」
「そうですか。では、殺戮機構その一、その三、その四、その七、並列アクティベート」
構築された五つの武装。それは全て現代兵器に属するものであり、特別な効果は何一つ無い。純粋な暴力であり、文字通りの殺戮機構だ。
ミニガンが二つにグレネードランチャー、小型ミサイル、更には対物ライフルまで。
「さあてっと、お邪魔させてもうらぜ」
「っ、キルゼムオールか……。噂は聞いているぞ」
「演奏は絶やすなよ。即お陀仏だぜ」
「分かっている」
ホルン達の射程範囲に逃げ込み、キルゼムオールはインベントリから武器を取り出しては投擲する。
元々は『剣の従者』に掃射を防がせるつもりだったが、都合のいい盾があるので利用しているのだ。
「それよりお前、指名したと言っていたな。このデタラメなNPCはお前の仕業か」
「リーダー! お喋りしてる暇なんて無いっすよぉ!」
「っ、仕方ない」
面倒な問答が始まりそうな雰囲気ではあったが、必死にバウロンを叩き奏でている少女が泣き言を言うので、ホルンは合図を出して次の曲へ移行する。
彼らが奏でているのはアイリッシュ音楽であり、ケルト音楽と同一視されることも多い楽曲群だ。厳密な定義はさておき、合図一つでシームレスに次の曲へと移行するので、相当な技量が無ければここまで綺麗な演奏にはならないだろう。
「(とりあえず首だよね。一撃で斃せればよしって感じで。レギオンは追撃お願い)」
さて、ミゼリコルデの注意を惹いていた間に、セナは《ステルスハント》によって死角へと移動していた。
《クルーエルハンティング》も発動しているので、狙うのは即死を狙える首である。
「(手応え……が、無い!?)」
「脅威更新、部位欠損を確認。最大警戒」
振るわれた短剣は、ミゼリコルデの首を切断した……ように見えた。
実際に刃が通ったのはほんの少しだけ。その瞬間、ミゼリコルデは首の連結を解除して刃を回避、距離を取ってから再連結したのだ。
自動人形だからこそ可能な回避手段である。
それでも、セナの刃が通ったのは事実だ。元々のレベルに関係無く、刃で斬りつけることさえ出来たのなら、防御も耐久も頑丈も無視する欠損付与攻撃は強力なジャイアントキラーに成り得る。
「再稼ど――」
「マスターを警戒するのは当然。でも」
「レギオンもいるよ」
停止した武装が再稼働する前に、レギオンが更なる奇襲を加える。
大人レギオンが影を使って手足の武装を破壊し、少女レギオンが胸の中央目掛けて槍を突き出した。
その槍はあらゆる面で優れている竜の爪を穂先に据えた、影の槍だ。相手が格上であることを考慮して、何本も用意されている。
「っ、脅威再更新。私は対人専門なのですが……殺戮機構」
さすがに弱体化された状態では危険と判断したようで、片腕を犠牲に飛び退いたミゼリコルデは、失った右腕の代わりに武装を構築しようとする。
「させないよ。《ボムズアロー》」
「隙を見逃すわけねぇだろ!」
だが、隙を見逃すような二人ではない。
疫病系のスキルは通用しないと分かっているので、着弾と同時に爆発を起こす《ボムズアロー》を使用するセナ。
キルゼムオールは禍々しい血色の大剣を持って、いつの間にか『剣の従者』のすぐ側に移動していた。
「《アナイアレイトカース》!」
爆発に乗じて放たれた呪いの斬撃は、ミゼリコルデの左腕に食い込む。
《アナイアレイトカース》は破滅の呪い、仕様としては加速度的に耐久度を減らす呪詛だ。この呪詛は装備のみならず、有機物無機物問わず効果を発揮する。
無機物ならば前述の通り耐久度を、有機物ならば耐久度の代わりに生命力を消費させるのだ。
そして勿論、この呪いが武器に込められていると言うことは、武器破壊を代償とするアーツの威力が底上げされると言うことだ。
「――《ハイブレイク・インパクト》ォッ!」
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