3.そこで自爆です!
視界が暗転した次の瞬間には、セナはだだっ広い草原に突っ立っていた。周囲を見渡し、一先ず危険が無いことを確認すると、自分のステータスを表示する。
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『セナ』レベル1
“猛威を振るう疫病にして薬毒の神”の信徒
└【疫病の加護】
スキル:
【テイマー】 【アーチャー】
【使役獣強化】 【使役獣覚醒】
【毒化】 【魔力付与】
【鷹の目】 【採取】
【調合】 【木工】
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信仰先とスキルがきちんと反映されているのを確認し、貰った弓も肩を通してあるのを確認し、インベントリも使えることを確認したセナは、遠くに見える町に向かって歩き出した。
一ヶ月経ったとはいえ、新規プレイヤーは今でも増え続けている。セナのような初心者装備に身を包むプレイヤーは珍しくない。
「っと、兎さん……よし」
歩き出して数分、セナは兎と遭遇した。
もちろんただの兎ではない。頭部から角を生やしたホーンラビットと呼ばれるモンスターだ。
弓を持っているが、セナはテイマーである。その最初の下僕――ではなく仲間は、この兎にしようと決めた。
「まずは弓で牽制しつつ、ダメージを与えて……」
一射目をホーンラビットの目の前に刺さるよう放ち、二射目は止まった瞬間を狙って放たれた。
初心者用の弓と矢であるためダメージ量はそこまで多くなく、矢を受けたホーンラビットは後ろ脚で地面を叩き、勢いよく突進しようとする。
「《テイム》!」
が、セナはテイマーである。動物やモンスターを使役するために必要な技能はスキルによって身に付いており、負傷したホーンラビットはセナの使役獣となった。
「よし! 兎さん、周辺の獲物を狩ってくるのです!」
使役獣となった途端に負傷が回復したホーンラビット。周辺にまだ同じモンスターがいるのを確認したセナは、かつての友や家族だったもの(セナ視点)を狩るように命じた。
命じられたホーンラビットは、ついさっきまで一緒にプレイヤーを襲う仲間だったホーンラビットを躊躇無く突き殺す。
《――レベルが上がりました》
《テイム》による経験値と、今獲得した経験値によって、セナのレベルが上がる。
『フェイス・ゴッド・オンライン』はレベルを上げることでステータスを伸ばすのだが、レベル以上に重要なのがスキルである。
無論、最低限のラインに立つためにはレベルも必要だが、こと戦闘に於いてスキル以上に重視されるものは無い。
一〇個の枠に設定したスキルとプレイヤースキル。
前者は最適な組み合わせを、後者は努力を求められる。
セナのスキルは典型的な後衛サモナーだが、【毒化】のようなデメリットスキルを選んでいるのには理由がある。
「よし、兎さん次! あ、なるべく斃さずに集めてね!」
少しだけ疑問を覚える指示をだしたセナは、走って行くホーンラビットを他所にステータスを開く。
テイマーに関連するスキルは、本来は【テイマー】【使役獣強化】【使役獣覚醒】の三つだけだが、【疫病の加護】とのシナジーを考えて【毒化】と【魔力付与】が加わっている。
「まず《ポイズン》を使って……《マナエンチャント》!」
【毒化】は使用者のアイテム、もしくはMPに毒属性を追加するスキルだ。
正式サービス開始前の環境では、ポーション等の生産を行う際にデメリットを付け加えることで、アイテムの基礎性能を向上する用途で選択されたスキルである。
【魔力付与】は使用者のMPをパーティーメンバーに与えるサポート系のスキルで、主にヒーラーかMPを必要としない前衛が選択している。
……さて、ここに病毒への完全耐性を有しているプレイヤーがいる。
普通のプレイヤーなら、【毒化】の《ポイズン》を自分に使用した時点でDOTが発生し、HPが削れているだろう。
しかしセナのHPは一切減らない。
これだけなら、変なことしているな、程度にしか思われない。
だが、そこに【魔力付与】が加わり、かつ【テイマー】に備わっているある技能を使用すると……
「兎さん! そこで自爆です!」
ボンッ! と毒々しい煙を大量に撒き散らしてホーンラビットが散る。振り向いた顔が「マジで?」と言っているように見えたのは、きっと幻覚だろう。
「……よし!」
《自爆命令》。テイマーとして活動している者が最後の最後に苦渋の決断をして使用する切り札。
本来なら、敵に囲まれて撤退が不可能だったり、もう後が無い状況で切られるのだが、セナは特に危険でも何でもない状況で使用した。
得られた経験値は一〇匹分。自爆によるダメージと、加護によって強化された毒のスリップダメージによって、セナはとても酷いトレイン狩りを成功させたのだった。
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