第6話
ラインハルト公爵邸の方へと戻ってきた僕。
「ゴートンでございます。入室の許可を頂きたく」
「許す。入れ」
「失礼します」
僕は今、ラインハルト公爵邸にいる中で最も古参であり、重要な位置にいるゴートンという老年の男を自室へと呼びつけていた。
用件はもちろん、僕が家に連れ帰ってきたララティーナ王女殿下についてである。
今、彼女には客室の一室に滞在してもらっている。
「……ノア様。無断での外出はお辞めください」
僕はまだ八歳と若く、公爵家の嫡男という重要人物である。
外出には父上の許可が必要になるのだが……現在父上は領内ではなく王都の方に向かっているため、不在。
外出の許可を得るのに時間がかかるため、面倒で嫌だったのだのだが、僕がルールを破ったのは事実。
怒られるべきは己である。
しかし、そもそも今はそんなことを話している場合ではないだろう。
「うるさい。今はそれどころではない……何故、我らが領地に王女が?」
「……わかりませぬ。我が領地で影響の持っている裏組織による犯行だと思われますが」
「王女がうちの領地に来るという話は?」
「聞いておりませぬ」
「王女がうちの領地の近くを通るという話は?」
「聞いておりませぬ。ララティーナ王女殿下が王都より外出したという話もありませぬ」
「ちっ……そうか」
僕はゴートンの話に頷き、思考を張り巡らせる。
だが、思考を張り巡らせようにも今の僕には必要な情報も権限も足りない。出来ることなど限られている。
「良し。うちの騎士団と家紋を使って裏組織の締め上げをする準備をしておけ。それと、領内の封鎖もしておくように。誰もここから出すな。逃げられると不味いが、勝手に動くわけにも行くまい」
「そうでしょうな」
僕の言葉にゴートンが頷く。
ララティーナ王女殿下が関わる一件への対処……それを僕の裁量で指揮を取るわけにはいかない。
「馬車と騎士団を用意しろ。我がララティーナ王女殿下を王都へとお連れする」
「んなッ!?」
僕が王都に行くという発言を聞き、ゴートンが白目を剥いて驚愕する。
「お、お待ちください!」
「待たぬ。貴様には我に諫言を告げる権利など与えていない。これは決定事項だ。何も言わずに実行せよ。僕はララティーナ王女殿下のおわす部屋の方へと向かう」
「しょ、承知しました……」
ゴートンにも色々と言いたいことがあるだろう。
しかし、権限は僕の方が上である。僕を諌められるような権限を持った偉い人間は全員父上と共に王都だ。
それに現在の状況では僕がララティーナ王女殿下を王都にお連れするのが最善だろう。
明確に間違えているわけではない判断をゴートンは止められない。
「我が為に動け」
僕は一方的に命令を下し、ゴートンの横を通り抜けて自室から出てララティーナ王女殿下のいる部屋へと向かった。
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