第45話

 ララティーナが国王になるべく色々と動いたような頃。

 アレスは自身の根幹を支えると言ってもいい『正義』をノアに否定され、自分がどうすれば良いかわからず、人生の道を迷子になっていた時。 

 結局アレスが頼ったのはノアであった。


「正義と悪。割とどこでも軽々しく使われている言葉であるが、この二つほど曖昧で恐ろしい言葉もない」

 

 殺気満々のリリまで連れてアレス、リリス、レースの四人でとある片田舎で楽隠居中のノアの元に押しかけ、彼に対して正義とは何かを問いかける。

 ノアは面倒くさそうに眉を顰めながらも正義とは何かについて、持論を話していくれていた。


「まず、大前提として正義とは何だ?人として正しい道を進むことか?ルールについて違反しないことか?では、人として正しいとはどこの誰が決めるのか?ルールはどこの誰が作るのか?正義なんてものは各それぞれで基準が変わる曖昧なことでしかなく、絶対なことではない。正義なんてものを絶対のものとして考え、動くなど愚者のやることだ」


「うぐっ……」

 

 正義について問われたノアはバッサリとアレスの人生の意味を一切容赦なく切り捨てる。


「そして次に聞くが悪とは何だ?他人を殺さないと生きていないような快楽殺人者は悪か?人を食べるような食人鬼は悪か?」


「え?……そりゃ悪に決まって……」


「それを悪と断ずるのは簡単だ……だが、僕は簡単に誰かを悪とすることが許されない。僕は貴族であり、責任ある立場なんだよ。人を殺すのが悪だ……ここまでならまだ良いだろう。だが、それをどんどん下げていったらどうだろうか。人を騙すのは悪か?人に嘘をつくのは悪か?神を信じぬ者は悪か?王を信じぬ者は悪か?貴族を信じぬ者は悪か?今の体制に不満を持つ者は悪か?……正義は暴走する。僕が『誰か』を悪と定め、それを殺すことも簡単だ。だが、そんな僕の軽はずみな行動が迫害を生み、差別を生み、大量虐殺を招きかねない」

 

 前世の歴史で嫌と言うほど繰り返した絶対の真理。

 正義は暴走し、多くの迫害と差別を生み出す。

 それはたとえあそこまで文明が発展した現代であっても変わらないのだ……たとえ人類がどうなろうとも決して変わらぬ真実なのだろう。これは。

 ノアは決して誰にも話さない前世でのことを思い出しながらアレスに向かって話す。


「ここまで正義とは何か?悪とは何か?ただ疑問を投げかけていたが……結局のところ。僕にとっての正義とは何か?そう聞かれたら僕はこう答える。まったくもってどうでもいいもの、と」

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