第25話

 人類最大の犯罪組織であるアンノウンとの戦いをしなくちゃいけなくなった僕ではあるが、ずっとそれにかかりきりと言うわけにはいかない。

 ラインハルト公爵家、次期当主としての勉強がたくさんあるのだ。

 内容は数学や科学、歴史、地政学、宗教学、文学、美術などの地球の方でも馴染みあるものから魔法学、帝王学、社交ダンスに外交を前提とした心理学など異世界のラインハルト公爵家の次期当主として生まれてなければやらないであろうことまで学んでいた。


「あ、あのノア様……ノートを」

 

 この国でも屈指の教師から個人授業を受けている僕は一切ノートも取らず、先生の話を聞いていた。

 そんな態度に見かねた先生がおずおずと申し訳なさそうに口を開く。


「構わん。記憶する」

 

 それに対する僕の答えは実に単純なものだった。

 ノア・ラインハルトの肉体スペックは異常そのものであり、一度聞いただけでその内容をある程度覚えられる。

 ノートなんて取らなくても聞くだけで十分である。

 この世界だと紙の希少性はそこまで高くないが、それでも現代日本よりは希少であり、ノートもそこそこの値段がする。

 無駄に使うものでもない。


「そ、そうですか……」


「汝が我の心配をする必要などない。言われた通りの仕事をこなせばよいのだ。ただ、教えるべき内容を我に教えよ」


「……はい」

 

 先生は僕の言葉に素直に頷き、授業を再開する。

 彼はこの国でも屈指の教育者であるが、権力者というわけではない。

 僕に逆らえるわけがないのである。


 ■■■■■


「……嘘、だろ?」

 

 ラインハルト公爵邸の別邸。

 そこに、ノア・ラインハルトに教えている各教科の先生たちが作業する大きな部屋が存在していた。


「しっかり満点なのか……」

 

 定期的に行っているテストの丸付けをしていた先生の一人がノアの満点回答を見て驚愕の声を漏らす。


「なんというか、毎回満点だし、色々と狂うよね……授業態度は真面目とは言えないけど、本当に理解している。これが天才って奴なのかしら」


「……俺なんか、あいつに言い負かされたんだけど。あいつ、俺よりも高度に地政学を理解し、応用していやがる」


「それ、本当に八歳児?」

 

 化け物としか思えない成績をたたき出すノアに先生たち全員が信じられない気持ちを共有していた。


「ともかく、ラインハルト公爵家は将来安泰ということだろうか?」


「あの性格さえなんとかなればねぇ……」


「なぁ……」


 毎晩部屋にメイドを呼び寄せ、遠慮なくおっぱいをもみほぐし、我儘で実に傲慢なノアの姿を先生たちは思い浮かべ、深々とため息を吐いた。

 

 

 

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