第11話

 溜まりにたまった書類仕事を終え、時間の空いた僕はラインハルト公爵家における護剣の影のアジトへとやってきていた。


「ふぅ……こうしてみると僕は働いてばかりだな」

 

「お疲れ様です。ノア様」


「ん。ありがと」

 

 僕は紅茶を淹れてくれたリンにお礼の言葉を口にし、紅茶を口に含む。


「ノア様っ」

 

 僕がくつろいでいた部屋に無表情ながらも喜びを全身で表現しているレイが入ってくる。


「んっ」


 レイは手に持った書類の束を机に置いた後、僕の方へと抱き着いてくる。


「……あれ?」

 

 抱き着いてきたレイを優しく抱きしめかえした僕は彼女の匂いを嗅ぐ中で首をかしげる。


「……香水か何かつけた?」

 

 レイから嗅ぐことの出来た匂いはいつもの良い匂いではなく、香水の匂いであった。


「そうです。ど、どうでしょうか……?」


「僕は香水の匂い嫌いだから、次からはつけないで。僕はレイ本人の匂いが好きだから……汗臭くてもオッケーだよ。香水の匂いは嫌」

 

 僕は香水の匂いはそんな好きじゃないのだ……地球でも嫌いだったが、異世界に来てから僕の香水嫌いは更に加速した。

 異世界の香水はどれも普通に品質が悪いのだ。


「えっ」

 

 僕はレイを離して立ち上がり、書類の束が置かれたテーブルの前の椅子へと腰をおろす。


「あっ……」


「さて、と」

 

 僕は前にある書類の束にある手を伸ばし、視線を書類の方へと落とす。


「調査結果はどうなっているかなーっと」

 

 護剣の影の面々には四年前のララティーナ王女殿下誘拐事件について今一度調べてもらったのだ。


「やっぱり足取りは掴めず、か」


「はい」

 

 僕の言葉にリンが頷く。


「四年前の調査と同様にノア様がララティーナ王女殿下を助けた際に接触した男たちとアンノウンのつながりは確認出来ませんでした。また、」


「……そうか」

 

 ララティーナ王女殿下誘拐事件。

 王城で厳重に警護されている王女を誘拐するという大事件を引き起こした犯人にしては四年前のあの日。

 僕がララティーナ王女殿下を奪還した男たちがあまりにも弱く、杜撰なのだ。

 

 王城から王女を誘拐、この領地に運び込むまでは間違いなくアンノウンの手の者による犯行だが、その先は別。

 何が起きたのかは不明だが突然ララティーナ王女殿下の身柄はアンノウンの手から離れてただのごろつきの手に委ねられ、そして。

 彼女は僕に助けられた。

 それがララティーナ王女殿下誘拐事件の詳細であり……未だ残る謎。


「時間が経てば何か変わるかと思ったけど……そんなうまくはいかないかぁ」


 僕は書類の束にある情報を眺めながらそんなことを……つぶ、や……く?


「あれ?これってばもしかして……」

 

 僕は書類に書かれていた一つの違和感を見つけ……え?


「はぁ?」

 

 この違和感が何を意味するのか。

 それを想像し……その意味を予想した僕はそのあんまりな事実に頬を引き攣らせた。

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