第10話

 波乱の会談を終え、ラインハルト公爵家の方へと帰ってきた僕。


「……多いな」

 

 そんな僕は家を空けていた間溜まっていた仕事を前に頬を引き攣らせる。

 少し離れただけで執務室にある当主の机は書類に埋もれていた。


「うむ……それではいつも通り書類仕事は頼んだぞ?我が息子よ。これもまた当主になるための仕事である。ではな」


「ちょっと待てや」

 

 さも当たり前のように書類仕事から逃げようとした父上を引き留める。


「既に数年前から書類仕事をすべて投げられているのに今更当主になるためとかいらんから。手伝って。さすがにこの量をすべて僕一人でこなすのは面倒」


「……無理とは言わんのだな」


「無理ではないでしょう?」


「まぁ、そうであるが……これを一人では三徹コース。泣き言も言わぬとは大したものだな」


「父上の放任主義の結果ですよ。ずっと息子に領地の書類仕事を任せきりと言うにはいけないでしょう?自分の息子の仕事ぶりを確認するついでに仕事を手伝っていってください」


「……書類仕事は面倒なのだがなぁ」

 

 僕と父上は共に椅子に座り、書類仕事を始めたのだった。

 ちなみに僕が座った席は当主の席である……これは許されるのか?

 

 ■■■■■

 

 領主の仕事には地味なものが多い。

 基本的には文官より上げられた報告を確認し、確認したことを示す判子を押すだけ。

 領地運営の政策は領主が考えることよりも文官たちが考えることの方が多い。


「むっ。洪水が起こったのか」

 

 僕は一枚の報告書を取って手を止める。

 そこに書かれていたのは洪水が起きたというもの……農地は流され、かなりひどい有様らしい。


「……ふむ。これじゃあ不十分だな」

 

 報告書に書いてある対処法を見て不十分だと感じた僕は同じ部屋で同じく事務作業をしている文官の方へ視線を向ける。


「洪水被害にあった土地をすべて農民から買い取れ。商人に食い物にされるよりも早くな。資金は一年ほど前に僕が増やしたものを使え。あれで足りるだろう。言っておくがケチるなよ?農民が農業を行わず副業だけでも一年食っていけるくらいの金額を出しておくのだ……あぁ、一応言っておくが一年後に農地は返すからな?」


「了解しました」

 

 僕の言葉に文官は頷き、早速地方へと送る書類の制作に入る。


「……ふぅむ。二度洪水が起きぬよう堤防工事をしておきたいが……予算不足だな。やっぱり復興が最優先か。雲など最悪魔力で吹き飛ばせばいいしな」

 

 そんな文官のことを片目に僕はこれからの方針を考え続けた。

 

「……随分と成長したものだなぁ。だが、最後の結論である雲なんて吹き飛ばせば良いやという脳筋思考にはさすがにドン引きだぞ」


 うるさいよ?父上。出来るんだから良いでしょう?

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