第二章 学園

第1話

 雪が降り注ぐ冬の寒さが薄れ、春の暖かさが徐々に広がっているとある日に。

 舗装の施されていない砂利道を力強く進んでいく馬車の中で僕はゆっくりと移り変わっていく外の景色を馬車の窓からただただ眺めていた。


「な、なぁ、ノアよ」


 そんな僕に対して、己の前の席に腰を下ろしていた父上が声をかけてくる。


「なんでしょう?父上」


「……その大量のピアスはなんとかならないだろうか?」


 父上は僕の耳についている大量のピアスを見ながらそう告げる。


「無理です」

 

 そんな父上の言葉に対する僕の返答は実に単純明快。

 拒絶の一言であった。


「これから我々は他国との会談に赴くのだ……その姿のままと言うわけには……」


「問題ないでしょう。姿に関する規定はなかったはずです」


「まぁ、そうなのだが……常識としてな?」


「かつての慣習など僕には関係ありませんよ。もとより僕はこの姿で国王陛下にもお会いしているのです。今更でしょう。それに国王陛下にお会いする際はピアスをつけ、他国の国王陛下にお会いする際はピアスをつけていないというのは自国の国王陛下を軽視していると思われませんか?」


「むぅ……」

 

 僕の言葉を受け、父上が押し黙る。


「……こう、息子への接し方は難しいものがあるな」


「父上が長らく僕と接していないからではないですか?」


「むぅ……」

 

 僕の言葉を受け、父上が押し黙る。

 

「父上が僕とこうして顔を合わせて会話を交わすのは数年ぶりですから……未だにララティーナ王女殿下から手紙が送られてきているのですから」


「良いではないか。若人同士の手紙の送り合い……実に結構結構。青春しているではないか」


「一回、一回の手紙の分厚さが辞書レベルなのですが。これは青春ではなくホラーです……僕が手紙の返信として一枚の紙切れにお手紙ありがとうございますとだけ書いて送ったら、その返信として辞書が届く気持ちがわかりますか?」


「おぉう……」


 僕の言葉に対して父上はなんとも言えない表情を浮かべて、ちょっと引いたような声を漏らす。


「はぁー。学校に行きたくない……ララティーナ王女殿下と顔を合わせるのが怖い」


 僕が前世の記憶を思い出し、ララティーナ王女殿下の誘拐事件が起き、僕がリューエスの儀式場へと強盗に入ってから早いことでもう四年。

 12歳となった僕は学校へと入学するより少しだけ前のこの時期に外務大臣を歴任するラインハルト公爵家嫡男が代々行っている外交の練習。

 長年の同盟国との会談の場へと馬車に乗って向かっていた。

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