第30話

 接近戦で激しくぶつかり始めた僕とリューエス。


「オイオイオイッ!あんだけ偉そうにしていたくせになんも出来ねぇのかよォ!」


「……ッ」

 

 僕は剣に魔法を纏わせ、リューエスの振り回すハンマーと打ち合っていた。


「ふー」


「ったく。ガキが……体もまだ出来上がっていない状態でいっちょ前に戦おうなんてするなよなァ!おい!まぁ、俺的には良質な実験材料が手に入るからありがたいんだが」

 

 この世界の人間の身体スペックは頭がおかしく、そこら辺の大人が地球の100m走の記録を塗り替えるように速かったり、当たり前のように岩を壊したりする。

 それに加えて魔法で身体能力を向上させることも出来るので更にゴリラ化することになる。

 結果。魔法を飛ばすよりも、魔法を素手で叩きつける方がはるかに威力が出るという事態になった。

 そのため、この世界の人間は基本的に魔法を剣などの武器に纏わせ、腕力でぶん回すのが一般的な戦い方だ。


「……ッ」

 

 防戦一方。

 僕の体は小さく、筋肉量も少ない。

 大人相手に接近戦で勝てるはずがないのだ。


「あっ……」


 どれほど打ち合っただろうか。

 リューエスと打ち合っていけばいくほどの僕はどんどんと押し込まれていき……そして、とうとう僕のガードが打ち払われ、彼の前に無様な姿を晒す。


「ぐほッ!」


 そして、僕の腹にリューエスのハンマーが捻じりこまれた。

 己を守っていた結界魔法はあっさりと破壊され、八歳児でしかない僕の軽い体はあっさりと宙を舞い、木へと叩きつける。


「カハッ……ゲホッゲホッ」


 僕は地面に手をつき、口から血を吐き出す。

 痛い……痛い、この世界を生きる中で初めて感じた激痛。体が痺れ、思うよりに体が動いてくれない。


「うし。これで終わりか。案外手こずったな」

 

 死ぬ、殺される。

 公爵家嫡男であり神童と言われはいるものの、所詮はただの餓鬼でしかないのだ。

 調子に乗ってしゃしゃり出て、無様に敗北して死に瀕している。

 己の愚かな行為が僕を死へと誘う……そう、僕はこれから死ぬ。

 こっちの攻撃は通じず、相手の攻撃一発で僕はノックダウン、普通に考えて勝てるわけがない。


「……くくく」

 

 僕に死が迫っている……。

 なのに、どうして僕はこんなにも晴れやかな気持ちなのだろうか。


「あぁ……」

 

 嗤いが、零れる。

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