第48話

 圧倒的な速さで大地を駆け抜け、僕へと幾度も突進してくる黒い影を僕は手にある刀で弾いていく。


「だ、大丈夫なの……?」

 

 その場で立ち尽くし、相手の攻撃を受け流すだけの僕を見てガイちゃんが不安そうな声を上げる。


「汝が心配する必要はない。汝はただ、そこで見ているだけで良い」

 

 僕へと今、襲い掛かっている黒い影は全力を出した僕よりも速い。

 速度とは単純な強さだ。

 単純に早ければ相手の攻撃をすべて避け、こちらの攻撃を一方的に当てることが出来るからだ。


「ふんッ!」

 

 僕は刀を回し、全方位に魔力の波動を飛ばす。

 

「……ふぅむ」

 

 魔力の波動を受けてもなお一切


「魔力でもダメか」

 

 この黒い影はゲームにも出てきた敵の一人である……魔法が効かないという性質を持った面倒な敵だ。

 魔力ならあるいは、と思ったのだが全然ダメだった。


「……ッ」

 

 魔力を飛ばすなんて余計な動作を入れたせいか。

 

「ノアッ!?」


 僕の腹に自分が受け流し損ねた黒い影の突進がぶち当たる。


「ぐっ」

 

 黒い影の突進を受けた僕は口から血を吐き、地面を転がる。


「ふっ」

 

 地面を転がった僕は急いで立ち上がり、次なる衝撃に備える。


「ぐっ」

 

 刀を前へと構えた僕だったが、次に黒い影の突進が来たのは正面ではなく背後。

 僕は再び吹き飛ばされ、地面を転がる。


「ノアッ!?大丈夫なの!?」


「はっはっは!案ずるな!」

 

 僕は幾度も地面を転がりながら大きな声を上げる。


「致命傷だけは防いでいる!」


 僕は本当に喰らったらヤバいのだけはなんとか回避しながら激しく黒い影とぶつかり合う。


「ふぅー、本当に早いな。クソ……」

 

 魔力を全力で行使すれば少しは対抗出来ると思ったが全然そんなことはなかった。

 黒い影の速さは僕の想定以上だった。

 だけど……これで終わり。


「時間切れだ」

 

 黒い影の突進を受け、地面を転がった僕は寝っ転がった状態のまま血で真っ赤に染まった手の平を地面へとつけ、一言呟く。

 すると、何度も吹き飛ばされることで地面に飛び跳ねた僕の血が光り輝き始める。


「外法、束縛霊法」

 

 僕はゲームのとあるキャラが使っていた魔法とも魔力を使った攻撃とも違う特殊な力を発動させる。


「キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ」

 

 甲高い不快な声が響くと同時に僕へと追撃しようとしていた黒い影の動きが止める。


「これで終いよ」

 

 僕は動きを止めた黒い影へと手に持った小さな試験管へと封印したのだった。

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