第5話

「……」


 ど、どうするべきだ?これは。

 なんでうちの領内で王女様がスラムの人間に捕まっているんだ?


「ひ、一人を不意打ちで倒したくらいで調子に乗るなァ!」


 いや、そんなことを考えるのは暫し後……というか僕が考えても仕方ないな。

 とりあえず目の前の敵を倒すのに集中しよう。


「ハァァァァァッ!」


 叫びながら僕の方へとナイフを振り下ろす一人の男。


「は?」


 彼は自分が振り下ろしたナイフが僕の皮膚へと当たった瞬間、半ばから折れるという有り得ない現実を目にして固まる。


「こんな安物でこの僕に傷をつけようなど……言語道断であるわ」


 僕は自分の目の前で固まってしまった男に膝蹴りをぶち込んで気絶させる。


「あと一人」


 僕は最後に残った一人へと視線を向ける。


「ひ、ひぃ!?」


 最後の一人は完全に腰が引けてしまっているようで、僕の視線を受けただけで情けない悲鳴をあげる。


「い、一体何者なんだよぉ!お前はぁ!」


 ……王女様の手前だし、正体は明かしていた方が良いよな。


「何者、であるか?くくく……貴様のような凡夫が我に尋ねるなどありえないが、今日の我は気分が良い。特別に我が名を拝聴させてやろう」


 僕は自分にかけていた変身魔法を解き、本来の髪色と瞳の色を晒す。


「んなっ!?」


「我こそがラインハルト公爵家嫡男、ノア・ラインハルトその人であるッ!平伏せよ、凡夫」


 僕はそう言い放ち、残った男の真上へと移動し……頭へと己の足を置いてそのまま地面に叩きつけて、男を上から見下ろす。


「頭が高かったぞ?」


「ぐ、ぐふっ……」


「案ずるな。凡夫よ。汝には聞きたいことが沢山あるのでな。殺さないでやる故、安心するが良い」


 僕はそう言うと、男の首へと蹴りを叩き込んで意識を遥か彼方へと飛ばす。


「さて、と……」

 

 僕は視線を男から座り込んでしまっているララティーナ王女殿下の方へと近づく。


「大丈夫でしたか?ララティーナ王女殿下」


 僕はララティーナ王女殿下が被っているフードを外して、ご尊顔を拝謁しながら口を開く。


「えっ。あっ、はい。大丈夫です」


「それなら幸いです」

 

 ……良かった。

 ここで大丈夫って答えられることはまだ乱暴はされていないのだろう……されていない、よね?

 

「色々とご事情を尋ねたいところではありますが……こんなところでは無粋でしょう。私の公爵邸にまでお招きしたい」

 

 僕はララティーナ王女殿下の方へと自分の手を伸ばす。


「私の手を取ってくださいますか?」


「も、もちろんです!」

 

 ララティーナ王女殿下は自分の方へと伸ばされた僕の手を掴んで立ち上がる。


「良かった。それでは参りましょうか」

 

 僕はララティーナ王女殿下の手を握ったまま、自分の家に向かって歩き出した。

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