第41話

「……」

 

 アレスは沈黙する。


「「「……」」」

 

 そして、他の三人はアレスの反応を待つ。

 ノア・ラインハルトは間違いようのない強者であり、彼に対抗できるのはこの場でアレスだけであるのだ。


「……俺は、信じていたんだ」

 

 ぽつりとアレスが言葉を漏らす。


「ノアが、戦争を止めてくれると……平和を作ってくれると」

 

 呆然としていたアレスの瞳に力が宿り、彼は剣を構える。


「だがッ!お前は戦争を止めるどころかその勢いを拡大させ!リリの母親までもを殺した!」

 

 剣をノアへと向けるアレスはその身に怒りを宿し、口上を上げる。


「許せるはずがない!ここでッ!俺がお前を倒す!」


 覚悟を決め、足を一歩踏み出したアレス。


「良いのかね?我を殺して……戦争が終わり時を見失うが?」


 そんな彼へとノアは声をかける。


「確かに我がルルド魔導帝国を今戦争に参戦させ、規模を拡大させた……問おう。何故ここまでの情報があって気づけない?そもそもこの戦争そのものを引き起こしたのが僕であると」


「……は?」


「リーミャ王国のラーニングラドを吹き飛ばしたのは我だ。ルクス連合が様々な国と同盟を組むよう仕向けたのも我だ。フェルジャンヌ王国を今戦争に参戦させたのも我だ。この戦争はすべて我の手の平の上……ここまで言えばわかるか?アレス」


「……何が、言いたい?それを言って俺に何をしようと……ッ!」


「貴方は……」

 

 突然アレスの怒りに油を注ぐような言葉を告げるノアに困惑するアレスに対し、レースは何かに気づいたかのように苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら口を開く。


「この戦争を終わらせるまでの……シナリオが頭の中にあると?」


「「……ッ!!!」」


「流石はレースだ。この戦争の何もかもが我の手の平の上。であれば当然その終わりまで我が作っているに決まっておろう」


「だから……何だと?」


「何。簡単な話だとも。アレス。君は強い。我よりもな……だが、アレスの智謀は我に遠く及ばない。君がここで我を殺したとて、どうすると言うのかね?誰がこの戦争を終わらせると?ここまで大きく広がった戦争を終わらせられるのが我以外にどこにいる?君は一時の正義感の充実がために多くの人間が死ぬことを良しとするのか?」


「も、元とを言えばお前が……ッ!」


「あぁ、そうだとも。我はまごうことなき君が倒すべき悪だ。しかし、そんな我がいなければ戦争は終わらず、多くの人が死に絶える」


「……本当に、終わらせられるのかしら?」


「逆に聞くが、レースよ。我が出来ないと思っているのか?」


「……」

 

 レースはノアの言葉に沈黙する。

 それが答えであった。


「さて、問おうか。正義の意思を受け継ぎしアレスよ。汝の正義は自己満で目の前の悪を倒し、自分が気持ちよくなるためのものか?それともより多くの人を助けることか?」

 

 ノアは無表情のまま静かにアレスへと問いかけた。

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