第34話

 戦果。

 ドレシア帝国軍を打ち破り、その領内へと軍を進めたという戦果は圧倒的だ。

 ただでさえ僕は既にフォレンク王国を単独で滅ぼしているのだ。

 僕の戦果は既に圧倒的……僕の家が外交を主軸とする文官の家なのにも関わらず、だ。

 

「うーん」


 僕がこれ以上戦果を積み上げることを、功績を積み上げることを認められない上の人間の意向によって僕はドレシア帝国軍との戦線から移動となり、本当に戦闘のせの字もない辺境へと左遷されていた。

 

 ラインハルト公爵家は長い歴史を持つ公爵家であり、文官の方への影響力は強いのだが、あいにくと軍の方には大した影響力を発揮出来ないのだ。


「のどかな良い場所だ」

 

 僕が左遷された場所は実に心地の良いのどかな田舎。

 スローライフを満喫するにはあまりにも良い場所だ。


「……君さえいなければ」

 

 だが、僕の目の前にララティーナがいればもう台無しだ。

 スローライフなど望めるはずもない。


「ふふふ……そこまで明確な敵意を示さなくて良いじゃないですか。私の記憶の中にあるノア様はもう少し優しかったと思うんですけど?」


「……悪意満々の相手に愛想を使えとはなかなか酷なことを言うね?」


「悪意なんてありませんよ?私にあるのはノア様への愛だけです……そろそろ私と婚約したくなった頃合いかと思いまして」

 

 ドレシア帝国では基本的には男子相続であり、女帝が生まれることはまずない。

 しかし、フェルジャンヌ王国では正妻の子であれば誰であっても王位につくことが可能であり、女王が誕生する可能性は大いにある。

 ララティーナはいつの間にか次期国王の座に収まっていた。


「私が次期国王になるのをノア様が影から支えてくださったでしょう?あれは遠回しなプロポーズだと思ったんですが、どうでしょうか?」


「……愛の押し付けは駄目じゃないか?」


「問題ありません。必ずノア様に愛されるよう努力しますので。私が愛されるよう一杯愛してあげますからね」


「……束縛が激しすぎて嫌になっちゃうね」


「すみません……どうしても愛を抑えきることが出来なくて……それで、どうでしょうか?私の夫となれば他者から干渉されることなく自分の好きなように行動出来るようになると思いますが」


「……むむむ」

 

 僕はララティーナの申し出に対して口をモゴモゴさせた……させることしか出来なかった。

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