第6話
忘れられていた。
その事実を前に驚き、困惑しているリリに対して僕は言い訳でもするかのように口を開く。
「助けられた側にとっては唯一無二の恩人かもしれないけど、助けた側にとっては自分が救ってきた多くの患者の一人。全員完全に覚えるとか難しいんだよ」
僕が助けたと言えるような人物の数は百を超えている。
仕事柄、僕は覚えておかなければならない人がかなり多いため、時間をかければ思い出せるだろうか、パッとその場で聞かれてもすぐには思い出せない。
「……なるほど。確かに言われてみればその通りですね。それにしてもノア様はすごいですね」
「ん?何がだい?」
「あのノア様が忘れてしまうほどに多くの人を助けてきたのでしょう?」
「そうでもないさ。僕は所詮自分の目についた人しか助けられてないからね」
「いえ……それでもすごいですよ」
「そう言ってくれるのであれば嬉しいよ」
……治療行為として人体実験をこなし、ちょいちょい死者を生み出してしまっている僕には少しばかり耳の痛い話である。
「それでは改めまして……私の母を助けてくださりありがとうございました。そして、お礼を申し上げるのが遅れてしまいすみませんでした」
「構わぬ。あの時の僕は変装魔法を使い、自分の姿を欺いていたからな。むしろよく気付いたものだよ」
「……いえ、母を助けるために私の領地へと訪れてくれた際にパンケーキを作っていらっしゃったので」
「……あぁ。確かに作っていたかもしれん」
実験中に糖分を欲した僕がパンケーキを作っていたとしてもそれほど不思議ではない。
リリの家が治める領地にパンケーキの原材料あるし。
「それでわかったのか」
「はい」
僕の言葉にリリが頷く。
「感謝するのもいいけど、そこまで感謝しなくていいよ。僕は何か特別なことをしたとも思ってないしね。これくらい当然だよ」
……あれ?そういえば魔力欠乏症に関して調べたいことがあって、世界中の魔力欠乏症患者を見つけては片っ端から調べて治して行っていたけど……僕がリリの母親を助けたの不味くないか?
アレスとリリの馴れ初めに確か母親が関係あったはず……僕の軽はずみな行動でだいぶ変わったよな。シナリオ。
……ララティーナ王女殿下でお腹いっぱいになっていて、他のヒロインについて完全に忘れていたぜ。
「……ッ!ノア様は……本当に器の大きなお方ですね」
「……そんなことないよ」
治療行為に人体実験を兼ねていたこともあり、リリの素直な感謝に若干の後ろめたさを感じる僕は視線をそらしたくなるのを我慢しながら頷いた。
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