第22話

 天上で輝くはずの満月が分厚い雨雲に隠れ、雨が降り注ぐ夜。


「うむ。よく帰った。困難な任務から生きて帰ってきた君たちを我は誇りに思う」

 

 雨に濡れ、血を流しながらも川の向う側にある敵陣への奇襲作戦を成し遂げた精鋭たちへと僕は声をかける。


「後は我らに任せ、君たちはゆっくりと休むが良い」

 

 傷を負った者は医務官の元へ、疲れ切った者は寝床へと向かっていく。


「……まさか、ここまで上手く嵌まるとは」


「そうですね。自分もここまでの被害を齎すとは思っていませんでしたよ」

 

 今、僕たちはリステン川より少し離れた丘の上に陣地を作り、川の氾濫で阿鼻叫喚となっているルクス連合国軍を眺めていた。

 想像を超える水の量に兵士たちが魔法でせっせと作る堤防も一瞬で破壊され、兵士たちが流されていく。

 リステン川の向こう側にあったルクス連合国の陣地のほとんどは水に流されてしまっている。

 

「撤退を選びましたか」

 

 ルクス連合国の人間は陣地から離れ、どんどんと後ろへと撤退していく。

 

「ふむ……それでは追撃と行きましょうか」

 

 僕は自分の魔力を高ぶらせ、魔法の詠唱を始める。

 

「大地よ、凍れ」

 

 僕の膨大な魔力の元で放たれる大魔法は川の水全てを完全に凍りつかせる。


「……ッ!」


「傾聴ッ!!!」

 

 川の水が凍り、氷の大地が出来上がったことを確認した僕は声を張り上げる。


「我々はこれより撤退していくルクス連合国の追撃へと移る!諸君!氷の大地を駆けるための滑り止めは完璧かッ!?」


 僕の言葉に兵士たちが大きな声で頷く。


「よろしい!それでは行くとしよう!総員ッ!突撃ぃぃぃぃぃいいいいいいいい!」

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」

 

 兵士たちが怒号を上げ、丘を下って氷の大地を進んでいく……撤退するルクス連合国の兵士を追って。

 

「ふむ……まぁ、これで勝ちでしょう」


「……ここまでの大魔法を使えるのであれば最初から壊滅させられたのでは?」


「そこにある水を凍らせるのは案外簡単だったりするんですよ……それに戦争は兵士を働かせてこそです」

 

 僕は告げ、この丘に残る騎兵や兵糧部隊、医務官に負傷者と。

 ここに残る者たちに進軍の準備をさせるため、命令を出しに向かった。

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