第5話

「え?え?え?」

 

 困惑した様子のガイちゃんを眺めながら僕は持ってきていた書類をテーブルの方へと並べていく。


「我々は数年にも及ぶ大規模な調査の結果、ようやくララティーナ王女殿下を誘拐した犯罪組織の情報を入手し、そのアジトを襲撃。情報を確保することに成功いたしました。」

 

 僕は書類を指し示しながら淡々と説明していく。


「そして、その組織とラステア公爵家の取引の記録がこの書類に記載されています」

 

 僕は一枚の書類をガイちゃんの方へと突き出す。


「こちらの書類に書かれているのは間違いなくレグ殿のサイン。筆跡から見てまず間違いなくレグ殿のものですよね?押されている印鑑も間違いなくラステア公爵家のものですよね?」


「嘘……そんなッ!!!」


「何か心当たりはありませんか?ガイちゃん」


「……え?……ぁ、それは……」


 僕の疑問に対してガイちゃんが口ごもる。


「ま、待てッ!!!」

 

 僕とガイちゃんのやり取りを眺めていたガイちゃんの父上……レグ殿が大慌てで立ち上がって声を張り上げる。


「我々はアンノウンとの関係など持っていないッ!!!」

 

 歴戦の外交官であるレグ殿にとってもあまりにも早すぎる場面展開でついていけなかったのか、所詮はお遊びの会談だと油断していたのか、あまりにも異質すぎる僕という存在に怖気づいたのか……理由はわからないが、レグ殿はあまりにも致命的な失言を口にしてしまう。


「ふむ……レグ殿。我が息子はまだララティーナ王女殿下を誘拐した組織名を告げておらぬぞ?ここからでは机の上の書類など見えぬ。何故、わかるのですかな?」


「えっ……ぁ」

 

 同じ傍観席に座る父上の言葉を受け、レグ殿が固まる。

 明らかな失言を口にしたレグ殿を前に事情を知っている僕の父上と我が国の国王陛下を除く全員が困惑し、動揺の声を漏らし始める。


「そ、そんな……父上!!!」


「ち、違うのだ!事実無根だ!たまたま見えただけだッ!」


「ガイちゃん」


 動揺するガイちゃんに僕は優しく声をかける。

 

「……ッ!?」

 

「僕は父の罪を息子が、家族が背負う必要はないと思っています。ガイちゃんの思う心当たりを僕に話してくれるのであれば、僕が、フェルジャンヌ王国がガイちゃん並びに事件に関与していない君の家族を守ると誓いましょう」


「……え?」


「ま、待てッ!」


「それに我が家はラステア公爵家との交流も長いですから。君の父上を罰せられないようにするのは難しいですが、命だけは守ってくれるようリーミャ王国に対して我が家が嘆願することも出来ます……どうでしょう。何か、心当たりはありますか?」


 優しく話しかけた僕の言葉。


「……ち、父上が」

 

 それにガイちゃんは安易に飛びついてくれたようだった。

 追い詰められた人が突如出来た逃げ道へと簡単に流されてしまうってのは本当だったようだ。


「時折父上が怪しげな人と会っているところを私は確かに、見ました……それと、暮らしぶりも少し前からかなり良くなったように思います……まるでどこからか金を手にしたように」


「ガイッ!?」


「ふっ」

 

 僕は両王国の国王陛下並びに重要人物の前でガイちゃんから証言を引き出せたことに満足し、笑みを浮かべた。

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