第57話

 修練場の方に戻ってきた僕とララティーナ王女殿下。


「……信じられないくらい強いんだけど」

 

 そこではゲームの主人公にフルボッコにされ、地面に倒れ伏しているガイちゃんと。


「自分、強さだけは自信がありますから」

 

 木刀を片手に一切息を切らしてもいないゲームの主人公……そして、それを歓声しているゲームの主人公のハーレムメンバーが雑談していた。

 

「ねぇ、ちょっとノアも挑んでくれない?」


「嫌だよ……なんで名前も知らない奴といきなりバトルを始めなきゃいけないんだ。まずは自己紹介からでしょ」

 

 僕はガイちゃんの言葉に対してそう答え、自身にかけている変身魔法を解く。


「「「……ッ!?」」」


「ふー」

 

 そして、魔法を使って豪華に見える椅子を作り出して腰を下ろす。

 ちなみに材質は石なので普通に座り心地は死んでいる。


「我が名はノア。ラインハルト公爵家の嫡男であり、次期ラインハルト公爵家当主だ。さて、汝らの名前を聞こうか?」


 僕はうっすらと魔力を出して軽く威圧しながら不遜な態度で自分の自己紹介を終える。


「お初目にかかります。私の名前はアレス。ただの平民でございます」

 

 ゲームの主人公、アレスは僕の方へと頭を垂れ、己の名を名乗る。


「ふむ……アレスか。その名、覚えてやろう。ガイちゃんに勝ったその実力を讃え、我に対して自然に接することを許してやろう」


「ありがとうございます」

 

 僕の言葉にアレスは礼を口にして立ち上がる。


「ふん。構わん。実力のある者は優遇されて当然なのだから……敬語を使う必要もないぞ?それで?他は?」

 

 他の人に褒美を与える立場だからこういうスタンスの方が良いよね。


「私の名前はリリス。アレスと同じく平民にございます。どうかよろしくお願いいたします」


「お久しぶりですね、ノア様。ハルト侯爵家の次女、リリ・ハルトにございます」


「初めましてかしら?私はハブルクス公爵家の三女、レース・ハブルクスよ。後、まだラインハルト公爵家の当主ははっきりと決まっていないから」


「ん?愚弟のことを言っているのか?あれはまだ優秀な部類ではあるが、我の土台を揺らすほどではないぞ?」

 

 ゲームの原作だとノアに代わってラインハルト公爵家の当主になる僕の弟だが、この世界のノアこと僕は自分の力をいかんなく発揮している。

 あいつに日の目が当たることはないだろう。


 ゲームだと僕の弟の立場を上げるためかヒロインであるレースと交流があり、弟のように可愛がられていたという設定があった。

 ちゃんとこの世界でもレースは僕の弟贔屓なんだな。


「どうかしら……こんなところで遊んでいる貴方よりは……」


「レース。無駄なことを話す必要はありませんよ?ノア様が他人に負けるはずがないでしょう?ノア様は────以下略」

 

 レースの弟贔屓発言はララティーナ王女殿下のとどまることを知らない僕への賞賛に叩き潰された。

 ……褒められて恐怖を覚えたのは初めてだよ?

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