第18話

「さて、と……本音で言うのであればレイを愛でながらここでゆっくりしていきたいところなのだが、僕も忙しい身なんでね。そろそろお暇させてもらうよ」


「あっ……」

  

 しばらくの間、レイを抱いてベッドの上でゴロゴロしていた僕は体を起こし、レイから手を放す。


「確か、王女様と……」

 

 変わらず部屋に居続けるガレッドが口を開く。


「うん。そうだね。置いて行ったね……まぁ、彼女の身柄自体は護衛の人たちが回収してくれただろうけど、僕の印象は最悪だろうね」


 僕としては印象最悪のまま彼女が僕への興味と恋心を失い、僕と言う男の存在を忘れるような事態になってくれると良いんだけど。


「ノア様の身に何かありましたら、私たちが必ず」


「王家への叛意を口にするなよ?お前らが」


「も、申し訳ありません」


「まぁ、ただの一王女に僕をどうこう出来る力なんてないさ。公爵家の神童の名は伊達じゃないよ」


 悪童として名を馳せていたゲームの頃ならともかく神童として名を馳せている今の僕を父上は全力で守ってくれるだろう。


「こっちはこっちで何とかするさ。君たちは引き続き、王女を攫った組織の調査を進めていてくれ」


「……わ、私たちが今何を取り組んでいるのかまで把握しているのか!?い、いや……後で書類にまとめて詳しく説明する内容ではあるから知っていること自体は良いのだが……ど、どうやって?」


「企業秘密だよ。じゃあ、またね」

 

 護剣の影が僕を裏切るとは思っていない……しかし、万が一という可能性もある。

 これくらいの楔は打ち込んでいても良いだろう。


「あ、あの!」


「ん?」

 

 僕が部屋から出ようとした瞬間、レイに声をかけられる。


「わ、私を、捨てないですよね……?」


「ふっ。当たり前だろう?君は僕の寵愛を受ける権利を得たんだ。君が嫌だと言っても僕から逃げられない。死ぬまで一緒だよ」


「……ッ!は、はい!」


「……っ」

 

 僕の言葉にレイが満面の笑みを浮かべ、頷く……な、なかなか威力が高いではないか、その笑顔。


「じゃ、じゃあね……あっ、レイは僕がいずれ領地に戻るときに一緒に来てもらうから、そのつもりで用意しておいてくれよ?」


「承知いたしました」


 僕は最後にガレッドへとそれだけ伝えると、今度こそ部屋から退出した。

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