第17話

 僕の隣で気絶したように眠っている生まれたままの姿のレイの頭を撫でながら僕は自分の前にいるリンへと視線を送る。


「僕が頼んでいたものは持ってこられた?」


「はい。滞りなく。こちらがデータとなっております」

 

 僕の言葉にリンは頷き、僕の方へと書類を突き出してくる。

 色々な汁でべたべたな己の手を魔法できれいにしてから書類を受け取る。


「……やっぱり魔物の報告件数が下がっているか」

 

 魔物とは一般的に空気中の魔力に影響され、魔力が凝固した魔石を体内に要するようになった動植物のことを示す。

 魔物は人間に対して強い敵対心を示し、鍛えていない平民が戦えば簡単に殺される実に危険な生命体である。

 

 領主としては魔物から領民を守ることも仕事のうちの一つであるが、貴族家で雇っている職業軍人の数はそこまで多くなく、領内の魔物から村を守るだけの兵力を用意することは正直に言って不可能。

 そのため、街や村の不良・荒くれ者を冒険者という肩書きに押し込んで力をつけさせ、魔物と戦わせることで対処しているのである。

 だが、所詮は不良や荒くれ者を冒険者と呼んでいるだけであり、しょっちゅう暴走するため、冒険者を統括する組織として冒険者ギルドを発足させた。

 

 魔物に対処する冒険者を管理する冒険者ギルドには領民より寄せられる大量の魔物目撃報告が情報として残っている。

 リンにはここ数年の魔物の目撃報告の情報を貰ってくるよう命令を下していたのだ。


「別にそんなに難しく考える必要はなかった。もし、我が領内に部外者が紛れているのだとしたら人気のない森の中だ。うちの領は戸籍の管理が厳格だからね……魔物が住まう森の中に誰かが潜んでいるのだとしたら……」

 

「当然森の中で魔物に襲われ、それを返り討ちにするでしょから、魔物の報告件数は下がるということですね?」


「そういうことだね」

 

 僕はリンの言葉に頷く。


「後はこれらの情報を精査し、怪しい人物が潜伏していそうな場所を探し当てる……ありがと。ここまでやってくれたらあとは僕の出番だ」

 

 僕はレイから手を離し、ベッドの外へと出る。


「……そ、その」


「ん?どうした?」

 

 布団から出た僕からリンはそっと視線を逸らす。


「いえ、なんでもございません」


「ん。そう?なら、良いけど」

 

 僕は色々な汁でべたべたになってしまっている全身を魔法できれいにし、魔力で服を編み込んで自身の生まれたままの姿を隠す服を作る。


「それでは後処理の方は任せた」


「お任せください」

 

 僕は今も起きないレイに家具の配置を変え、なおかつ染みやら匂いやらでひどくなってしまっている部屋の後処理をリンに任せ、僕はアジトを後にした。

 レイってば出過ぎなんだよね。

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