第18話
僕はララティーナ王女殿下誘拐事件に関与し、今もなおラインハルト公爵家内に潜んでいると思われる存在が隠れ潜んでいるであろう場所をいくつか当たりをつけ、護影の剣の面々を送り込んだ僕は一人で出歩いていた。
「……これはただの勘でしかない」
普段は僕が隠している雰囲気。
意識して抑え込んでいないと勝手に覇気のような形で漏れ出してしまう僕の体内にある圧倒的な量を誇る魔力の圧を一切隠すことなくあふれ出させた状態で森の中を歩く僕は誰に言うでもなく独り言をつぶやき続ける。
「正直に言って君の目的が何のなのか。僕にはパッと思いつかなかった。けれど、違和感だけはちょっと前からあった。まず初めに魔族の目撃情報と魔族が起こした事件の件数が減った。大陸から撤退していく魔族を見た……魔族関連の情報の違和感」
僕の周りには誰も居ない。
だが、ある種の確信をもって僕は話し続ける。
「世界最強国たる帝国を統べる皇族でのごたごたに属国の間に漂う不穏な気配。人類全体に漂う不安定さ。長らく外交官の活躍で無理やりの形で維持してきた世界安定の崩壊の影……人類の脆弱性」
僕は一度言葉を切り、その後に深く息を吸ってから再び話し出す。
「遥か昔のお話。この世界のどこかに一人の少年がおりましたとさ。ごく平凡であった少年はとある奇跡を願ったその日から豹変。人が変わったように知的になり、数多くの知識を含み……そして、凶暴になった。人を殺し、人を犯し、人を盗む。そんな少年はいつしか魔王と呼ばれるようになり、自分に付き従う者へと力を分け与え、人類に対して宣戦布告。悪逆の限りをし尽した」
とある伝説。
この世界の国、部族、差別階級……そのすべてにおいて似たような形で語られるその伝説の内容の要約を僕は語る。
「魔王は死んだ。勇者に討たれて。だが、魔王に付き従う者の一部は生き残った。彼ら、彼女らは。魔族と呼ばれる彼ら、彼女らは今も牙を研いでいる。再び狂乱の時代を築くために。魔王の元、魔族が再び人類に対して宣戦布告をする日を待っている」
魔族が魔王の下で団結し、人類に再び宣戦布告することを予言するような形で伝説は閉められる。
「ただの伝説と笑うことも出来る。だが、火の無いところに煙は立たないとも言う。魔族が不穏。あぁ……伝説上の魔王の元で団結する魔族に、今の人間は勝てるのか。団結することの出来ない状況にある人間が」
団結したものが強いことなど誰でもわかる簡単な事実だ。
「僕は思うんだよね。この世界に多くの頭は要らない。されど、頭を一つに絞るのも暴走などの危険が孕む。であれば、二つの頭が睨み合い、勢力を維持し続けるのが最も良いのではないかと」
僕は足を止める。
そんな僕の足元にはいつの間にか霧が立ち込めていた。
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