第47話

 部屋から退出したノア。

 彼を追うため、リリスも部屋から出る。

 ノアが向かったのは自室であり、リリスは閉じられたノアの自室の扉の前で立つ。


「すぅー、はぁー」

 

 リリスは一度、大きく息を吸って吐いた後、扉をノックする。


「入っていいよ」


「失礼します……」

 

 リリスはわずかな緊張感を滲ませながら扉を開いて部屋の中へと入る。


「待っていたよ、リリス」

 

 ノアは部屋の中へと入ってきたリリスを笑顔で出迎える。


「……ノア」


「ん?」


「私はもう、何も奪われたくないの。私のものは……私の者。もう何も失いたくない……リリは私の友達なの。だから、お願い。リリを……いや、リリだけじゃない。私のものすべてに手を出さないで。そ、そのお願いを聞いてくれるなわ、わ、私の体を……」


「リリス」

 

 ノアは柔らかい笑顔と言葉でリリスの名を呼ぶ。


「僕は君から何も奪うつもりはないよ。何をされなくともね」


 リリス。

 どこにでもいるような悪徳領主の一人によって父親を雑に殺され、母親を屋敷に連れ込まれて廃人となった状態で返却され、母親は後にリリスの前で自殺。

 両親を幼くして亡くして孤児となり、自分を拾い、良くしてくれた孤児院も盗賊によって奪われた経験を持つ彼女は自分のものが、仲の良い人が他人に奪われることを異常なまでに嫌う……そんな彼女はノアにまた、自分の者が奪われることを恐れているのだ。


「現に僕は君から何も奪ってはいないだろう?今戦争でもリリスにとって大切なものは何も奪われていないはずだよ。さっきのリリへの攻撃だってアレスが止めると踏んでのもの。僕は今も過去も未来もリリスのものは何も奪わないと告げよう」


「……なんで?ノアがそんなこと……」

 

 リリスはそこまでノアが良くしている理由がわからず、困惑し、猜疑心をノアへと向ける。


「君が僕にとって特別だからだよ?」


 ノア・ラインハルトにとってリリスは路傍の石でしかないが、赤城蓮夜にとっては自分のお気に入りのキャラの一人である。

 周りより少しばかり特別扱いでも別におかしくはないだろう。


「ふぇ!?」


 ノアの言葉を聞いてリリスは動揺し、頬を赤らめる。


「ふふふ。単純明快な理由だよ。僕にとってリリスが特別だから


「そ、その……ありがと」

 

 ノアの言葉を聞き、リリスが頬を赤らめながらお礼を口にする。


「君の僕への用はこれで終わりかな?」


「う、うん……終わり」

 

 ノアの質問にリリスは少しばかり肩透かしを食らったような仕草を見せながら頷く。


「……そういえばリリスは僕にお願いを聞いてもらうお礼にに何をくれるつもりだったの?」


「ふぇぇ!?いや、それは……その……」


 リリスはノアの言葉に頬を真っ赤に染め上げ、ちらちらとノアの方へと視線を送りながら挙動不審となる。


「おいで」

 

 そんなリリスに対してずっとベッドに腰掛けていたノアは手を広げ、笑みを浮かべる。


「……うん」

 

 リリスは頬を赤らめながらその言葉に頷き、ノアの方へと寄っていった。






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