第19話

 ララティーナ王女殿下を置き去りにし、レイとの逢瀬を楽しみ、護剣の影の本拠地から王城へと帰還した僕。

 ずっとこちらのことを監視していたと思われる護衛の人から、男としてあそこで女性を置いていくという行為の許されなさ。

 それと膨れるララティーナ王女殿下を宥める役目を押し付けたことへの不満を軽く言われたことくらいで特に他の人からの、ララティーナ王女殿下からの接触もなかった僕はちゃんとララティーナ王女殿下から愛想つかされたと考え、楽観的な気分の中にいた。


「え、えっと……」


 その次の日に。

 僕の前に座る笑顔のララティーナ王女殿下と自分の隣の席に腰を下ろす満面の笑みの父上の姿を見るまでは。


「なんだ?あまりにも衝撃的すぎて理解出来なかったか?それではもう一度言おう、ララティーナ王女殿下とお前の婚約の話が持ち上がってきた」

 

 実に、そう……実に嬉しそうに、善意百%で告げる僕の父上。

 父上は放任主義なところがあれども、僕へとしっかり愛情を注いでくれている。この提案は僕への嫌がらせというわけではないだろう。


「そ、それは我が領内でララティーナ王女殿下が攫われていたことに対して関係が……?」


「いや、それは関係ない。昨日の時点で私たちにかけられていた疑惑、そして各貴族からの追及の言葉を尽く私が否定し、封じ込めてみせた。もうあの件で我が家が責められることはないだろう」


 流石は父上だ。もうあの一件を解決してみせるとは……え?


「では、何故いきなり僕とララティーナ王女殿下の婚約話が……?僕の婚約話は父上が他国との外交時のカードにすると考えていたのではなかったですか?」


「ッ!な、何故お前がそんなことをわかって……?」


「それは私が理由ですわ」


 僕の疑問に対して答えたのは父上ではなく、これまでずっと黙ってニコニコと笑顔を浮かべていたララティーナ王女殿下だった。


「ら、ララティーナ王女殿下の……?」

 

 僕は顔を引き攣らせながら口を開く。


「えぇ……運命的に助けられたあの日!私を王都まで優しくエスコートしてくれた日々から、私の頭の中から貴方の姿が消えないのです。はっきりと言いましょう。私は貴方に心を奪われました」


 頬を赤らめながらもはっきりと僕への愛を口にするララティーナ王女殿下。


「は、はぁ……」


 僕は視線を父上の方へと向ける。


「……ふぅむ」


 父上は何かを考えているようで、何の意見も口に出さない。


「……」


 ど、どうすれば……本音で話せば断りたい。

 だが、断って良い話なのか?これは。

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