第26話

 マルス学園の入学式。

 別に大して重要なこともなく、淡々と粛々と式は厳かに進んでいく。

 学園長の話があり、在校生代表の話があり、入学生の代表としてララティーナ王女殿下が話し、何事もなく入学式は終了する。

 その後は普通に大広間での社交界の始まりである。


「ご機嫌麗しく」


「えぇ」


 貴族の子供たちが自分たちのコネを作るため、多くの人間に話しかけていくことになる。

 当然公爵家の嫡男である僕のもとにも多くの人がやってくるのだが……。


「悪いが我は用事があるのでな」

 

 僕はたった一言それだけを話して自分の周りにいる貴族の子供たちから退散する。

 全力逃亡だ。

 ララティーナ王女殿下は未だに多くの生徒に囲まれている……僕に構っている余裕なんてないだろう。

 

「……ぁ」

 

 大広間から退出しようとしていることにララティーナ王女殿下も気付いたが……既にもう時遅し。

 僕はもう逃げる準備は出来ている!

 扉から出ると同時に僕は隠していた魔力を爆発。

 圧倒的な推進力を得て学園の中を駆け抜ける……僕のことを視界に捉えられる者はいないだろうし、周りへの被害も魔法で止めているから問題ない。


「ふっ。僕の勝ちだ」

 

 僕は学園どころかそのまま王都からすら脱出し、笑みを浮かべる。


「既に周りの大人たちへの根回しは完了している……後はもう学園に一度も行かず、世界剣魔学園の方にずっと通っていれば問題ないだろう」

 

 父上も僕の行動に対していちいち理由を尋ねることなんてしないし、僕が何をしてようとも小言を言うことはまぁ、ないだろう。


「くくく……僕は一番の峠を乗り越えてやったぞ!」

 

 物凄い達成感に襲われる僕……よくよく考えてみれば別にララティーナ王女殿下のことなんて無視すれば問題ないだろうし、別に壁でもなかったような気がするが……まぁ、わざわざ僕の達成感に自分で水を差す必要はないだろう。


「ララティーナ王女殿下が世界剣魔学園に転校してくるなんて言う珍事件が起きない限り大丈夫だろう」


 僕は気楽な気持ちで王都を後にしたのだった。

 流石に入学式くらいは出席しないとね。

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