第6話 本性
「我が名はティータ。ティータ・アルバート。貴様に決闘を申し込む!」
「ふぁ!?」
は?え!?決闘!?
いきなり何言ってんだこいつ?
ってあれ?
……アルバート?
「アルバートって、ひょっとして」
「そうだ、私は次期聖女と称えられしティーエ・アルバートの弟!ティータ・アルバートだ!尋常に勝負しろ!」
弟?弟って言ったのか?
こいつ幾つだ?
どう見ても目の前の男はティーエさんより年下に見えないのだが。
「あーっと……年齢を聞いてもいいかな?」
「そんな事を聞いてどうする?まあいい、姉上より1つ下の15だ」
嘘だろ?どう見ても成人男性にしか見えない。
いくらなんでも発育良すぎだろ。
背だって190はあるぞ。
「さあ、決闘を受けて貰おうか」
何が何でも決闘がしたい様だが、こちらとしては受ける気ゼロなので迷惑極まりない申し出だ。
つかなんで俺と決闘?
意味が分からん。
「一つ聞いていいか?何故俺と決闘がしたいんだ?」
「ふ、貴様は姉上のパーティーに相応しくないからだ。だから私が貴様を叩きのめし、姉上に貴様がどれだけ役立たずかを知ってもらう」
あれ?ひょっとしてこいつシスコンか?
うわぁ……気持ちわる。
「あのさ、言っておくけど。俺が役立たずなのはティーエさんもう知ってるぞ」
「なに?」
西の洞窟での事を思い出す。
あの時俺がしたのは殲滅後のテレポートだけだ。
正直今の俺の価値は、自分で歩いてついて来るワープアイテム程度でしかない。
だから決闘でぶちのめされたとして、俺の評価はこれ以上下がりようがなかった。
とはいえ、無意味に痛い思いをするのは勘弁願いたいところではある。
「だから俺と決闘しても意味はないぞ」
「嘘をつくな!ならば何故姉上は貴様とパーティーを組んでいるのだ!」
それは彩音がいるからだ。
そう答えようとした時、横から驚いたような声が飛んできた。
「ティータ!どうしてあなたがこの街に!?家はどうしたの?」
「あ、姉上!」
入口の方に目をやると、ティーエさんと彩音が立っていた。
どうやら二人は俺を訪ねてきた様だ。
「姉上、お久しぶりです。相も変わらず御美しい」
うん、やっぱりシスコンだ。
俺は確信する。
「もう、ティータったら」
ティーエさんが困ったような反応を返す。
照れたティーエさんもびっくりする程かわいいなぁ。
余りの可愛さについつい見惚れてしまう。
「実はドラゴンの件で来たのです。許可も、父上からちゃんと頂いております」
「まあ、そうだったの?でも何故教会ではなくたかしさんの所に?」
「いや、それは……」
ティータが返事を言い淀む。
どうやら、ティーエさんには内緒で決闘を申し込みに来ていたようだ。
まあ、そらそうだわな。
普通に考えればティーエさんが決闘なんて許可するわけないんだから。
本人は返事がしにくそうなので、そこで俺が代わりに答えてあげる事にした。
俺ってやっさしぃ。
「俺と決闘したいらしいですよ」
「ティータ!貴方なんて事を!たかしさん申し訳ありません。弟が大変失礼をしたようで」
ティーエさんが深々と俺に頭を下げる。
そんな姿さえも優美で美しい……
などと浸っている場合ではない!
こんな美しい女性に頭を下げさせるなど、男のする事ではない。
俺は慌てて頭を上げるよう声をかける。
「い、いや、あのどうか気にしないで頭を上げてください」
「そうです、姉上が頭を下げる様な事ではありません!」
「ティータ!もう、全くあなたって子は……お話があります、こっちに来なさい」
そう言うと、ティーエさんはティータの手を掴み店の外に連れて行ってしまった。
「はぁ……あんなのがティーエさんの弟だとか、信じられねぇ」
「そうでもないぞ」
俺のつぶやきに対して、彩音が楽し気に答える。
「丁度いい、お前も知っておいた方が良いだろう」
そう言って彩音は俺の襟首を掴み、店の外へと引きずり出す。
「ちょ、何しやがる!」
「いいから黙ってついてこい」
襟首掴んで引きずっておいて、ついてこいもあった物ではない。
俺は彩音に引き摺られ、宿屋の裏路地に連れていかれる。
そこで豆粒大の白い綿の様な物を手渡された。
「なんだこれ?」
彩音が同じ物を耳の穴に詰め込み、両手の人差し指でトントンと耳の穴を叩くジェスチャーをする。
どうやら俺にも着けろと言いたいらしい。しぶしぶと両耳に綿を詰めた。
すると微かに男女の声が聞こえくる。
「何故です?何故あのような者をそばに置くのですか?男を周りに置くなど、良からぬ噂の元になるだけではありませんか」
「私も好き好んで組んでいるんじゃないの。それ位理解しなさい」
これはティーエさん達の声か?
言葉遣いが少し違う気もするが、まあ兄弟相手に砕けた話し方をしているだけだろう。
しかし……好き好んで俺と組んでないって。
いや、そんな事よりも。
「おい、これって盗み聞きじゃ?」
小声で言う。
すると彩音は黙ってろと言わんばかりに口の前に人差し指を当てて、しーっと言ってきた。
黙って聞けと言う事なのだろう。
兄弟の会話を盗み聞きする。
その行動に何か意味があるのだろうか?
意図はよく分からないが、とりあえず彩音の指示に従う事にする。
逆らうと蹴り飛ばされそうだからな。
今のこいつに蹴られたら洒落にならん。
「彩音さんの幼馴染だから一緒に組んでいるだけよ。出なきゃ、あんな微妙なのと行動を共にしたりしないわ」
「で、ですが姉上……」
「あなたも彩音さんの桁違いの強さは知ってるでしょ?私が
……
「それは分かりますが」
「分かっているならこの話はここまで。それとも、あなたは私の邪魔をしたいの?もし私の目的を邪魔しようというなら、たとえ弟であろうと容赦しないわよ」
「わ、分かりました。すいません、姉上」
「分かればいいわ。もう彼に絡んではダメよ。いいわね」
話し声が消え、足音が遠ざかっていく。
幻聴か……今の、幻聴だよな?
信じられない内容に、思わず我が耳を疑ってしまう。
彩音にも確認してみた。
「今のってその、幻聴……だよな?」
「はははは、そんなわけないだろう。今のは正真正銘ティーエ達の話し声さ」
彩音は楽しそうに笑い。
耳の詰め物を外した。
こっちはショック受けてるってのに、楽しそうに笑いやがって。
さっき渡した白い綿をこっちの目の前に突き付けながら、彩音は言う。
「これは
人に聞かれたくない話をする時や、振動を遮断するために使われる。
と、彩音は俺に説明する。
「彩音。お前ティーエさんが猫かぶってたの知ってたのかよ」
「無論だ。自分の命を預ける相棒だぞ。相手の性格も分からずに組むわけがないだろう」
もっともな意見ではある。
しかし……純粋無垢な天使だと思っていただけにショックだ。
さらば俺の初恋。
どれほど可愛かろうが、裏表のある人間を俺は好きになれない。
「まあそう落ち込むな。人間良い所もあれば悪い所もあるものさ。確かに彼女はお前の思っていた様な人間じゃあない。けど、良い所だっていっぱいあるぞ」
どれだけ良い所がいっぱいあろうと、猫をかぶってる事に変わりはない。
彩音の言葉は俺にとって何の慰めにもならなかった。
「はぁ…なんでわざわざ俺にそれを教えるかなぁ」
いやまあ、知らずに騙される続けるのもあれだとは思うが。
思わず愚痴が口を突いた。
「一緒に行動していれば、いずれ嫌でも気づく時が来る。それなら早い方がショックも少ないだろ?」
そういいながら彩音は爽やかにウィンクする。
それは凄くいい顔だった。
「……」
顔だけは可愛いんだよなぁ。
こいつも。
あと胸もか。
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