第22話 彩音依存症

「エルフの森への救援ですか?」


ここはアルバート家の別邸だ。

リンがフラムを頼ってルグラント王国に来たと言うので、ここへ連れてきた。


「はい。森への被害が大きくて。このままじゃあ……」

「それはエルフ側からの正式な要請という事でしょうか?」

「あ……いえ、そういう訳では……」


どうやらリンは森の現状を憂いて勝手に飛び出して来たらしく、彼女の依頼はエルフ全体の総意ではない様だ。


「つまり個人的な御依頼であると?」

「そういう事になります……」


先程からティーエさんが淡々とリンに事実確認を行う。

明かにやる気がなさそうだった。


国からの正式な依頼じゃない上に、個人的な依頼を受けるメリットがティーエさんにはないもんなぁ……


彼女は聖女セイントを目指している。

その為に多くの栄誉や名声を必要としてはいるが、それはあくまでも国内での話だ。

国交のないエルフの森を救うメリットは彼女にはなかった。


「申し訳ありませんが、正式な要請でなければ国や教会は動けません」

「で、でも、本当に大変なんです!」

「リン・メイヤーさん、貴方の故郷を思う気持ちは痛いほどわかります。ですが要請も受けていないのに国が勝手に動けば、最悪両国間で戦争にまで発展するかもしれません」


もっともな意見だ。

頼んでもないのに他所の国が大軍を送りつけたりしたら、そら問題になるわな。


まあ戦争というのは少々大げさではあるが、問題が発生する可能性は高いと言えるだろう。

皆が皆、他人の善意を素直に受け止めるとは限らないのだから。


「ですので、国からの救援は不可能です」

「そんな……」

「ですが、個人的な依頼ならば我々でお受けすることも可能かと」


え!?


ティーエさんの思わぬ一言に驚く。

正直、彼女がこの仕事を引き受けるとは思ってなかったからだ。

ティータの方を見ると彼も同意見だったらしく、明らかに驚いた顔をしていた。


「我々ならば、貴方の望む働きを果たせると思います」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」

「ただ……私は2週間後に教会より拝命を控えている身ですので、仕事をお引き受けするのはその後という事になりますが。よろしいですか?」

「は、はい……」


返事に元気がない。

不満がもろ態度に出ていた。

今現在も被害が出続けてるわけだろうし、一刻も早く来て欲しいってのが本音なんだろう。


しかし頼みごとをしておいて不満を含んだ返事をすれば相手から、反感を買う事になるのだが……まあリンの年齢で処世術を求める方が酷というものか。


「ただ、たかしさんに頑張っていただけるんでしたら、もっと早くお引き受けすることも可能ですが」

「え?」


皆の視線が俺に集まる。

人に注目される事に慣れていないので、俺は思わずおろおろしてしまう。


「たかしさん。申し訳ないのですが一足先にエルフの森に向かい。 帰還魔法テレポートで移動できる様にしておいて貰えませんか?」


ああ、成程。

帰還魔法テレポートで自由に行き来できる様にしておけば、拝命式後でなくとも仕事に取り掛かれるからな。


「分かりました。先に行ってきます」


まあ彩音もいるし、森に行くだけなら楽勝だろう。

そう思い。

俺は気軽に返事を返す。


「たかしさん!ありがとうございます!!」


リンが満面の笑顔で力いっぱい頭を下げた。

美少女に頼られるのは気持ちいい。

天にも昇る――というのは少し大げさだが、いい気分だ。


「たかし。私は付いてはいけないが、頑張れ」


「……は?」


彩音がとんでもない事を言いだした。


道中の山脈越えでは危険な魔物との遭遇が予想される。

そこで働かずして、お前の存在価値は一体なんだと言うのか?


「は?何で?」

「私は明日から一週間、騎士団の強化訓練に付き合う事になっている。まあ訓練が終わり追いかけるから、その間頑張れ」


ティーエさんが俺に頑張って貰うと言った理由を理解する。

彩音の事情を知っていたからだろう。

気分が一気に天から地に落ちる。


「たかしさん!私も御一緒します!3人で頑張りましょう!」


「あ、ああ……」


俺自身、この前のドラゴン討伐でレベルは上がっている。

フラムだってドルイドとしてはかなりの腕だ。

余程の事がない限り、まあ大丈夫だとは思う。


だが彩音抜きだと考えると、どうしても一抹の不安が拭えない。


まあ今更屋だとは言えないし……道中変な魔物が出て来ない事を祈るしかないか。


しかし彩音がいないってだけで、こんなにも不安になるとは……


完全に彩音依存症である。

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