第14話 見舞い

コンコン


一応ドアをノックする。


「どうぞ」


あれ?

返事が返ってきた事に驚きつつも、勢いよくドアをあけ放つ。


「よお」


ずっと眠っていた彩音が、ベッドから上半身を起こし挨拶してきた。


「やっと起きやがったか、デカいなりして眠り姫様ごっこなんざ似合わねーぞ」

「もお、たかしさんったら。ほんとは心配してたくせに。でも良かったです。」

「二人とも心配をかけてすまなかった」

「おや?あたしはスルーかい?」

「すまんすまん、3人だったな」


猫を纏めんな。

この場合二人と一匹だろう。


「気にしないでください。それよりお加減はどうですか?」

「絶好調と言いたい所だが、少し体がだるいな」

「でしたら司祭プリーストさん呼んできましょうか?」


この国の病院施設は教会が運営している。

大抵の怪我や病気が魔法で治ってしまう以上、医者という職業は存在しえない。

その為、彩音が入院してるこの病院も教会の敷地内に建っていた。


「いや、大丈夫だ。これぐらい少し体を休めれば治るさ」

「無理しないでくださいね。あ、そうだ。これ、お見舞いのお花です」


結局花取り合戦はフラムさんに軍配が上がり、痛さ5割増しでここまで来るはめになってしまった。

無力な自分恨めしい。


「花か……綺麗だな、それにいい香りだ」

「でしょう!それ、彩音さんの為にたかしさんが選んだんですよ!」

「堂々と嘘つくんじゃねーよ」

「もう、たかしさんったら」


なぜこの女は当たり前の様に嘘をつくのだろうか?

恐るべし恋愛脳。


「そうだ私、彩音さんが起きた事、ティーエさん達に知らせに行きますね」

「迷子になったら大変だから、あたしも付いて行ってあげるよ」

「ありがとうございます」


そう言うと、恋愛脳コンビはそそくさと部屋を後にする。

部屋を出て行く際、俺に軽くウィンクをして来たが無視だ。


あいつ等には最早何も言うまい。

言っても絶対聞かないだろうし。


「そういやさ、彩音は何でこの世界に来たんだ?」

「なんだ、藪から棒に?」

「いや、何となく。やっぱ強くなる為か?」

「無論だ。お前だってそうだろう?」

「いや、全然違うぞ」

「そうなのか?」


彩音は不思議そうに首をかしげる。


生まれてこの方、強くなりたいなんて言葉を発した事はない。

何をもってして自分と同じだと思ったのだろうか?

むしろ不思議そうに首をかしげたいのはこっちの方である。


「たかし、3年前の事を覚えてるか?あの時もこんな風に見舞いに来てくれたよな」


3年前か…そういや見舞いに行ったな。

まあ行ったというか、無理やり行かされただけなんだが


3年前、彩音は銃で撃たれて入院していた。

偶然出くわした銀行強盗3人相手に大立ち回りを演じた結果、隠れていた4人目に銃で撃たれたのだ。


「あの時、私は油断から怪我を負ってしまった。我ながら情けない話だ」


彩音は銃で撃たれながらも、4人目もちゃんとぶちのめしている。

何が情けないのか俺には理解できないが、彼女には彼女なりの拘りがあるのだろう。


「あの時は周りから無茶をするなと、散々怒られてな。でも、皆最後は良くやったと褒めてくれたんだ」


まあ女子高生が素手で銃持った相手に喧嘩吹っ掛けりゃ、そら怒られるわな。

とはいえ、全員とっ捕まえたわけだから、怒るべきか褒めるべきか難しい問題ではある。


「だけどお前だけは違った。今に満足するな、上を目指せと。お前は私にそう言ってくれたんだ」


あれ?俺そんなこと言ったっけ?

3年前を思い出してみる。

確か夏休みだったはず。


あの日、俺はネトゲの美味しい期間限定イベントを寝る間も惜しんでこなしていた。

にもかかわらず、彩音が入院したって事で、お袋に尻を蹴飛ばされて病院に行くはめになったんだよな。


重症だというから渋々出向いたのに病室に行ったら彩音はぴんぴんしてて、それで腹が立ち、俺は思わず煽ってしまった事を思い出す。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「銀行強盗にやられたんだって?」

「ああ、だが全員倒した」


彩音が最強を目指していた事を思い出し、俺はそこを意地悪してつく。


「倒した……ねぇ。高々銀行強盗相手に負傷しておいて、最強が聞いて呆れるぜ」

「相手は銃を持っていたんだ、しょうがないだろ」

「はっ、苦しい言い訳だな。お前の目指す最強ってのは、素人が強い武器を手にしたくらいで怪我する程度のもんかよ」

「な!そんなわけないだろう!」

「だったらそんな様で満足してないで、精々精進するこったな」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


確か、こんな感じだったかな?


「あの時、お前だけが私の背中を押してくれたんだ。私に強くなれと」

「そ。そうか……」


腹が立って煽っただけなのだが。

何だかいい話風に受け取ってくれてる様だし、この際真実は伏せておこう。

些細な事だ。


「だから、たかしには感謝してる」

「感謝してた割に、この世界で再会したとき直ぐ名前出てこなかったよな?」

「あ、あれは……度忘れしてただけだ。もう忘れろ」



「仲が良いねぇ」


いきなり声が聞こえ周りを見渡すと、病室にいたはずが。いつの間にか何もない黒い空間に変わっていた。


そこには俺と、ベッドに寝ている彩音。


そして毛玉がいた。

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