第13話 恋愛脳

「はぁ…」


溜息が口から洩れる。

憂鬱だ…


この憂鬱な気分は、すでに一週間近く続いていた。


「溜息なんかついて、どうかしたんですか?」


フラムが俺を気遣って声をかけてくる。


原因はてめーだよ。

などと本当の事を言えるはずもなく、言葉を濁す。


「あ、いや。気にしないでくれ」

「何か悩みや困ってる事が有ったら、遠慮なく私に相談してくださいね」


悩みの原因に悩み相談など笑えない。

いっそぶちまけてやろうかとも思ったが、優しそうな笑顔で俺の心配をしてくてる女性に、暴言を投げかける勇気を俺は持ち合わせていない。


「陰気臭いねぇ。もっと明るくできないもんなの?そんなんじゃ、女性にもてないわよ」

「黙れクソ猫」

「んま!せっかく心配してやってるのに、何て言い草だい!」

「たかしさん、ミケちゃんにそんな言い方可哀そうですよ」

「へいへい」


ドラゴンを倒してからもう一週間もたつ。


命を賭けた死闘。


それを共に乗り越えた彼女は戦友と呼んでいいだろう。

しかし如何に戦友といえど、ウェディングドレス姿で付き纏うのは勘弁してほしい。


フラムが側にいると、周囲の目がくっそ痛いんですけど?


俺を気遣っての行動なのだろうが、流石に一週間もその状態が続くと、戦友からストーカーに格下げしたくなってくる。


フラムが俺を心配しているのは、彩音が昏睡こんすい状態だからだ。


怪我自体はティーエさんの回復魔法で既に完治している。

意識が戻らないのは、最後に使った大技の影響で肉体が疲労しきり、その回復のために深い眠りについているだけだそうだ。


ティーエさんが嘘を言う意味はないからな。

彼女の言う通り、ほっといてもそのうちあいつは眼を覚ますだろう。


だから俺は一切心配などしていないのだが、フラムは強がらないで下さいと言って、此方の言葉をガン無視だ。

落ち込んでいる俺を支えるつもりなのか、毎日グイグイ詰め寄って来る。


小さな親切大きなお世話とは、まさにこの事だった。


「あ!このお花可愛い!これにしませんか!きっと彩音さん喜びますよ~」

「あたしはどっちかって言うと、そっちの赤い花が好みだけどね」

「ええ~、赤は流石に駄目ですよー」

「あら、そうなのかい?」


ミケとフラムが楽しそうに見舞い用の花を選び出す。

御見舞い用の花なのだが、ウェディングドレスを着ている彼女が手にするとブーケにしか見えないから困る。


そう考えると、見舞いの花を買っても彼女に持たせるのは危険だな。

痛さ5割増しになっちまう。


「たかしさん、これなんかどうです?香りもすっごく良いんですよ」

「じゃあその花にしようか」

「やったぁ!」


竜退治までは落ち着いた感じの女性だったんだが、俺を励ます為かこの一週間は妙にテンションが高い。

それとも元々こういう性格で、打ち解けた事で素が出て来たのだろうか?


「何だかこうしてると、デートしてるみたいですね」

「おやおや、お熱いねぇ」


勘弁してくれ。人生初デートの相手がウェディングドレスとか黒歴史も甚だしい。


「なーんて、冗談ですよ!そんな事言ったら、彩音さんに怒られちゃいますもんね」

「何度も言うけど、彩音と俺は何でも無いぞ」

「どうだかねぇ」

「はいはい、そういう事にしておきますね」


このあほ女共フラムとミケは俺と彩音ができていると勘違いしており、何度否定しても照れているだけとしか受け取ってくれない。


これが恋愛脳ってやつかだろうか?

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