第12話 相席

「おはようございます」

「おはよう」


宿の食堂で食事をとっていると、知り合いの女が姿を現す。


「あ、今日はお魚なんですね。じゃあ、私も同じ物にしようかな」


そう言いながら女は俺の前の席に座り、ウェイトレスに手早く注文を伝えた。


「そういえば知ってます?来週この街で夏祭りがあるそうなんですよ。良かったら皆を誘って行きませんか?」

「いや、俺は遠慮しておくよ。人混みとか苦手だし」

「そうなんですか?私も人混みとかは苦手な方なんですけど、お祭りだとそういうの全然気になりませんよ。行ってみません?お祭り」

「考えとく」


勿論ただの社交辞令だ。

考えるだけで絶対にOKはしない。


「ほんとですかぁ。約束ですよ」

「ああ……」


魚を食べながら生返事を返す。

彼女は少し天然で、社交辞令が通じない所がある。

何か本格的に断る為の理由を考えた方が良さそうだ。


「今日はどうします?昨日みたいに古書屋さんに行くとか?あ!そうだ、御見舞いの前にお花屋さんへ寄りましょう。いつも手ぶらじゃあれですし、やっぱり御見舞いと言えばお花ですよね」

「寝てる人間に花なんか持って行っても、しょうがないんじゃないか?」

「お花は見た目だけじゃなくて、凄くいい香りがするんですよ。きっと眠っていても香りは届くと思うんです。それに目が覚めた時、目の前に綺麗なお花が咲いてたらきっと喜んでくれますよ」


見舞いの相手は、とても花を見て喜ぶタイプではないのだがな。


花より団子。

更に団子より――


「お待たせしました」


ウェイトレスが注文した料理を彼女の前に手早く並べ、一礼して愛想笑いのまま去っていった。


「うわ~、凄く美味しそう。私、お魚って大好きなんですよ~。」


女がナイフとフォークを器用に使い魚の身を丁寧に切り分け、切り分けた身をフォークで刺して口に運ぶ。

粗雑な自分の食べ方とは違って、彼女の動きは洗練されており、そこには優美ささえ感じさせられる。


「うん!美味しい!香草が効いてて、凄く美味しいです」


彼女は満面の笑顔で魚を平らげていく。


俺の方はというと、既に食事を終えていたので会計を済まして部屋に戻ってもよかったのだが、流石にそれは相手に失礼かと思い席に留まっている。


「……」


やる事もなく手持無沙汰であったため、幸せそうな顔で食事をする彼女の顔をぼーっと眺める。


「あの、どうかしました?」


そんな俺の視線に気づいたのか、彼女が訪ねてきた。


「いや、美味しそうに食べるなと思って。それに食べ方が凄く綺麗だ」

「有り難うございます。私も以前は汚いというか、雑というか、そういう食べ方だったんです。でも一応私も女の子ですし、何より、今着ている服を汚したく無いから頑張って直したんですよ」

「へぇ、そうなんだ」

「魔法でクリーニングも出来ますけど、出来る限り汚さずにいたいんで」


そんなに汚すのが嫌なら、箪笥の奥にでも仕舞っておけよ。


俺は目の前のウェディンドレス姿の変人フラムを見て、そんな事を考える。

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