第11話 気分はヒロイン?

俺は死を覚悟して目を瞑る。



……


………


…………あれ?


もうとっくに死んでてもおかしくないはず。

なのに痛み一つ感じない。


どうなってるんだ?


不思議に思い、俺は恐る恐る目を開ける。

すると、何故かドラゴンの大きく開いた口が眼前で停止していた。


だがその理由はすぐに分かった。


彩音が左手と左足だけで、ドラゴンの死角となる左側から口の根元を押し開いていたからだ。


「おおおおおおぉぉぉぉ!!」


その状態から彩音はドラゴンの口を押し広げ、力ずくで顎を外す。

そしてドラゴンの上顎を口の中から蹴り飛ばし、くるりと一回転して俺の横に着地する。


「たかし、待たせた」


彩音――いや、彩音様!


彩音が自分のピンチを救ってくれた事に感動し、胸が熱くなる。

今直ぐに跪いて、靴のつま先にキスしたいぐらいだ。


ん?でも待てよ。

そもそも彩音が油断したからこうなった訳だよな。


そう考えると今度は逆にだんだん腹が立ってくる。

一言文句を言ってやろうと彩音を睨み、はっと気づく。

彩音の右手と右足が折れたままだという事に。


「たかし、少し下がっていろ」

「彩音、そんな体で大丈夫なのか?」

「問題ない」

「わかった」


彩音を信じ後ろに下がる。

どちらにせよ、もう俺にできる事は何もない。

後は彼女を信じるだけだ。


圧倒的力ジャガーノート


俺が下がったのを確認した彩音は、スキルを発動させる。

スキルの影響か、彩音の肉体が深紅のオーラに包まれ、続いて握った左拳に眩いばかりの青い輝きが収束していった。


「喰らえ!全てを貫く一撃グングニル!!」


彩音が拳を前に突き出した瞬間、青い輝きが俺の視界を覆いつくす。

凄まじい轟音と衝撃。

彩音から離れているにも関わらず、その圧力に俺は吹き飛ばされた。


とてつもない力の奔流だった。

それらが過ぎ去った後、ドラゴンは影も形も残さず消滅していた。


そして我が目を疑う。

彩音の拳を向けた先、そこには先ほどまでなかった大きな空洞が穿かれており、夜目付与魔法リンクスアイを受けているにもかかわらずその最奥を見通す事が出来なかった。


滅茶苦茶だな…


周りを見渡すと、フラムさんは言うに及ばず、ティーエさんまでその光景をぼーぜんと眺めている始末だ。


「姉上、御怪我はありませんか?」


豪快に吹き飛ばされてはいたが、どうやらティータは無事だったようだ。

こちらへ向かいながら、ティーエさんへ気遣いの言葉をかける。


「わ、私は大丈夫よ……」


ティーエさんの声は震えていた。

彼女も彩音がここまでの力を持っているとは、流石に思っていなかったのだろう。


「――っ!これは……あの女がやったのですか……」


大きな空洞に気づき、ティータが驚いた様に尋ねる。

どうやら彩音の全てを貫く一撃グングニルを、気絶していて見ていなかったようだ。


「ええ……」


「あのー。彩音さん、さっきからピクリとも動いてないんですけど……」

「え!?おい!彩音大丈夫か!」


フラムさんの言葉にハッとなり、声をかけながら近寄って顔を覗き込む。

焦点が定まっていない。

手をパタパタと顔の前で振るが反応なしだ。


「立ったまま気絶してやがる」

「えぇ……」


全く大した奴だよ、お前は。


その時微かな振動を感じた。


ん?

何だ?


振動は次第に大きくなってくる。


「不味いですわ!先ほどの一撃で洞窟が崩落しかかってます!たかしさん帰還魔法テレポートを!」

「分かった!みんな集まってくれ!」


俺はハーピーを召喚し、皆が集まった所で帰還魔法テレポートを使い脱出した。

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