第10話 危機

初撃を止められた事にイラついたのか、ドラゴンが雄叫びを上げティータに襲い掛かる。


ドラゴンによる執拗な連続攻撃。


だがティータはそのすべてを手にした大型の盾で凌ぐ。

例え弾き飛ばされようとも、倒れる事なく前へ出続ける。


「すげぇ……」


感嘆の声が自然と漏れる。

いくら彩音との戦いで弱っているとはいえ、目の前の山の様なドラゴンの繰り出す攻撃を受け止め続けるなど、並大抵の事では無いはずだ。

本当に凄い。


だが時間が経つにつれ、ティータを覆うオーラが弱まってきた。

どうやらそう長くは持たない様だ。


ティータのオーラが完全に消えてしまう前に、俺は動く。

右手をドラゴンの真上の天井辺りに向け、ゴーレムを召喚する。


「喰らえ!ゴーレム落としロッククラッシュ


かっこよく名前を付けてみたが、要は高い位置で召喚したゴーレムを相手の上に落とすだけの技だった。

だが、落とすだけのシンプルな技ではあっても、数トンある重さのゴーレムが数メートル上から激突する破壊力は相当なものだ。


落下してきたゴーレムがドラゴンの背中に直撃し、轟音とともにドラゴンが腹をつく。

当然落下してきたゴーレムは衝撃でバラバラになり消滅する。


もう一発!


もう一度天井に向けて召喚する。

だがゴーレムが落下しきる前に、攻撃を察知したドラゴンが背中の翼でゴーレムをはたき飛ばしてしまう。


嘘だろ!

あの状態で対応してくるのかよ!


まさか防がれるとは夢にも思っていなかったので、目を見開いて俺は驚愕する。


拘束する蔦イヴィバインド


その時、涼やかな声が響いた。

地面から人の腕程の太さもある、蔦の様な植物が無数に飛び出し、起き上がろうとしていたドラゴンに絡みついて拘束する。

蔦に絡みつかれたドラゴンは必死で暴れるが、絡みついた蔦頑丈でビクともしない。


流石名うてのドルイド。

ただの痛い人じゃなかった。


この人こそ最強の痛い人だ!


って、これじゃあ只の悪口だ。

相手の動きが完全に封じられ、思わずテンションが上がりつい馬鹿な事を考えてしまった。


このまま抑え続けられればと、そう願うが。

残念ながら願いは天に聞き届けられる事は無かった。


暴れるドラゴンが急に動きを止め、口を大きく開いて息を吸い込みだす。


ブレスだ……


動けないなら、その状態のままで俺達をう焼き殺すつもりなのだろう。


「たかし!姉上の作戦通りブレスを止めろ!」

「てめぇ!俺の方が年上なんだぞ!ちゃんと敬称付けろ!」


ティータに怒鳴り返しながらも、俺は右手を向ける。

狙いは大きく開いたドラゴンの口の奥だ。


「食らいやがれ!」


ドラゴンの喉奥に魔法陣が現れ、スライムが召喚される。

喉奥に侵入したスライムがドラゴンの喉を詰まらせた。


「が――ごっ――」


相当苦しいのか、ドラゴンは先ほどよりも激しくもがきだす。

この状態ではブレスは吐けないだろう。

阻止成功だ。


ゴーレム落としロッククラッシュで追撃したいが、残念ながらもはやゴーレムを呼び出すだけのMPは俺には残っていない。


ティータを見ると、既に全身を覆っていたオーラは消えており、フラムさんも拘束する蔦イヴィバインドの維持でかなり消耗している様に見える。

長くはもたなそうだ。


拘束する蔦イヴィバインドが解かれれば、もはや足止めする術はないだろう。

ティーエさんの方をチラ見するが、まだ彩音の意識は戻っていない。


くそ!まだかよ!


ブチブチブチと嫌な音が耳に届く。

見ると、蔦が少しづつ千切れだし始めている。

その光景を、俺は成すすべもなく眺めるしかなかった。


そして最後の一本が千切れ飛び、続いてズチャっという音と共にスライムが吐き出され、消滅する。


「姉上には指一本触れさせん!」


ティータが前に出るが、先程まで受け止めていた右足の薙ぎ払いを防ぎきれず、遥か遠くへと吹き飛ばされてしまう。


ドラゴンが俺にゆっくりと近づいてくる。


どうやら、俺が次の獲物として選ばれた様だ。


「たかしさん逃げてください!」


フラムさんが叫ぶ。


そうしたいのは山々だ。

だが情けないかな、恐怖で体が動かない。

さっきまでは平気だったってのに、もう駄目だと思った瞬間から、恐怖に体が竦んで言う事をきいてくれないのだ。


ドラゴンはどうやら俺をかみ殺す気らしい。

その大きな口が俺に迫った。


死を前にして思う。


何の為に生まれたのか?

元居た世界では何もしてこなかった。

せっかく異世界にまで来たのに、ここでも何も成せないまま終わってしまう。


そんな無意味だった人生に、後悔の念が押し寄せる。


だが、もうどうしようもない。


俺は全てを諦め、目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る