第9話 注意一瞬、怪我一生
むう、何もしてねぇな……
結局ドラゴンは彩音が一人で倒してしまった。
何もしていないのはティータも同じなのだが、奴は登山中フラムさんとティーエさんの荷物を運ぶ程度の働きはしてる。
それに対して俺は誰かの荷物を持つどころか、逆に彩音に荷物として背負われて山脈を登ってきた。
我ながらひ弱な事この上なしだ。
まあ、ぼやいても仕方ない。
今はドラゴンを倒し、ガッツポーズを決めている
そう思い、近づこうとした瞬間。
彩音が豪快に吹き飛ぶ。
…………え?
一瞬何が起きたのか理解できずに固まる。
だが、答えはすぐにやってきた。
さっきまで倒れていたドラゴンが、ゆっくりと起き上がってきたのだ。
嘘だろ…顔面半分吹き飛んでんだぞ?
なんで死んでねぇんだ!?
吹き飛ばされた彩音の方を見ると、ピクリとも動いていなかった。
いかに彩音が強かろうとも、背後からの強烈な不意打ちを食らえば一溜りもない。
「プランBですわ!!!」
ティーエさんの声が響く。
その声に素早く反応したティータが物陰から飛び出し、倒れている彩音へと駆けよる。
フラムさんとティーエさんもそれに続いた。
プランBは彩音が怪我などで動けなくなった場合の作戦で、ティーエさんが彩音を回復し、残った3人で時間稼ぎをするというものだ。
俺はドラゴンの足元にゴブリンを2匹召喚する。
俺の召喚は右掌の直線状、射線が途切れる場所で発生する。
その特性を利用し、ドラゴンの足元にゴブリンを召喚。
ゴブリンを足元でちょこまかさせ、意識を俺達から足元に移す為に。
人間だっていきなり足元にネズミが出たらびっくりする。
ましてや足元をちょろつかれれば、嫌でも意識はそちらへと向くものだ。
もっとも、引き付けられる時間は10秒と無いだろう。
だがたかが数秒であっても、大技などで長く足止めできない以上、小さな事を積み重ねていくしかない。
召喚と同時に俺も駆ける。
俺にはもう一つ大きな仕事があり、仲間達の傍に控えていなければならない。
ドラゴンの方を見ると、煩わしそうにゴブリン2匹を前足で薙ぎ払っていた。
当然ゴブリンは即死し、消滅する。
5秒ともたない。
どうやら見積もりが甘かったようだ。
ならばその分召喚するだけの事。
俺は走りながら右手を向け、再び足元に召喚する。
直ぐに殺されるが、構わず何度も召喚しなおす。
続けていると、際限なく足元から湧いてくるゴブリンにイラついたのか、ドラゴンが大きく雄叫びを上げ、前足2本で地団太を踏むかの様に地面を叩き始めた。
作戦大成功!
そのすきに彩音の元へとたどり着く。
当然他の面々は先に到着しており、ティーエさんによる回復が行われていた。
彩音を見ると口元に血を吐いた跡があり、右手右足はあらぬ方向に捻じ曲がっていた。
そんな痛ましい姿に、俺は顔をしかめる。
回復魔法には詳しくはない。
だが流石にここまで酷い状況だと、回復するまでには相当な時間が必要となるはず。
果たしてそれだけの時間を稼げるだろうか?
そんな不安に駆られていると、ドガドガと地面を叩く音と振動が止まる。
ドラゴンの方を見ると、癇癪はもう収まってしまった様だ。
ゴブリンによる時間稼ぎで相当イラついたのか、此方を怒りの宿った瞳で睨みつけてくる。
その余りの形相に、俺は背筋が凍り付いた。
早いとこ彩音に復帰して貰わないとやばいぞ、こりゃ。
「何とかなりそうですか!?」
「回復に少し時間がかかります。どうか時間稼ぎをお願いします」
やはり予想道理、時間が掛かるようだ。
出来れば外れて欲しかったかが。
「お任せください!姉上!このティータの一世一代の晴れ舞台、御照覧あれ!」
そう言うと、ティータは盾を構えながらドラゴンに向かって前に出た。
御照覧も何も、回復で手いっぱいでお前なんか見てる余裕なんてないぞ。
そう突っ込みたかったが、やる気をそぐ意味はないので黙っておく。
俺は時間稼ぎのため、再びドラゴンの足元にゴブリンを召喚する。
だがドラゴンはそれを無視し、こちらへと突っ込んできた。
召喚してるのがばれたか?
もしくは怒りの余り足元が見えていないのか?
どちらにせよ、もうこの手は通用しない様だ。
「我が名はティータ・アルバート!我が忠誠と信念を姉上に捧げる!我を恐れぬならばかかってこい!」
「こんな状況で何恥ずかしい事叫んでやがる!」
「たかしさん。たぶん身体能力を一時的に向上させる
フラムさんが説明してくれる。
只の恥ずかしい前口上ではなかった様だ。
スキルの影響か、ティータの全身を青いオーラが包み込む。
そのティータへとドラゴンが勢いよく飛び掛かり、右足を豪快に叩きつけた。
轟音が響き。
地面が弾け飛ぶ。
だが、ティータは見事にドラゴンの一撃を手にした漆黒の盾で受け止めて見せた。
すげぇ……
でかい口を叩くだけはある。
俺はティータへの評価を改めたる。
シスコンから。
超強いシスコンへと。
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