第56話 アップルパイ

「おいしい!このアップルパイ凄くおいしいです!」


リンが2つ目のアップルパイを頬張りながら大絶賛する。

当然2つ目は俺から奪い取った物だ。

それすらもあっという間に完食し、羨ましそうな目で自分の分を口にしているフラムを見つめる。


だが残念ながら、普段は優しいフラムもデザートの事になると冷徹な鬼と化す。

リンがどれ程懇願の眼差しを向けようとも、気にも留めず涼しい顔でデザートを平らげてしまう。


「リン。お代わり頼むか?」

「いいんですか!?」


リンが目をキラキラ輝かせ聞いてくる。


彼女にはダンジョンで頑張って貰わないと駄目だからな。


彩音は内気功の練習だか何だかで今は山籠もりしている為、今回の王墓探索には同行していない。

やばくなったら呼び出すつもりではあるが、しばらくはリンに頑張って貰う事になるだろう。


現在リンのレベルは――俺のスキル効果込みで――126だ。

これに指輪の力が加わると149になる。

これはうちのパーティーじゃ、彩音に次ぐ堂々の第二位の数字だった。


もっとも、彩音のレベルはリンの2倍以上だったりするわけだが……俺の5倍以上とか笑えねーぜ。


因みに、レベルは新たに覚えた覗き見サーチで確認したもので、これがあれば敵の大まかな強さも把握する事が出来た。

ダンジョン探索ではかなり重宝すると期待している。


これ以外にも、セットしたトークンに転移できる目印転移トークンテレポートや、仲間を自分のもとに呼び寄せる呼び出しパーティーコール等、ダンジョン探索に役立ちそうなスキルをいくつか習得していた。


え?いつレベルが上がったのかって?


それはヴラドを倒した時だった。

俺は遠く離れた場所で気絶していたわけだが、転移でダメージを与えたおかげかなんか知らんが、経験値はちゃんと入っていたのだ。


「すいませーん。アップルパイ追加でもう一個お願いします」

「はーい、直ぐにお持ちしまーす」


エプロンを付けたニカが忙しそうに働きながら返事を返す。


ここは宿のレストランスペースだ。

ニカが絶品と言っていただけあって、昨日出されたバララ蜥蜴の帝国風姿焼きは冗談抜きで最高の味だった。

この宿に辿り着けたのは、本当にラッキーだったと言える。


「アップルパイお待ちどおさまー」


ニカが宣言通りアップルパイを直ぐに持ってきた。


よく働く子だ。


年齢はリンと同じ14歳。

まだまだ遊びたい年頃だろうに、勤勉に勤しむ少女に素直に感心する。


リンの方を見ると、テーブルに運ばれてきたアップルパイを必死に頬張っており、頬を膨らませもしゃもしゃ食べる姿はまるでハムスターの様だった。

とても同い年には見えず、思わず苦笑してしまう。


しっかし……こんな無邪気にアップルパイに噛り付いてる子が、今やミノタウロスを一捻りできるぐらい強いと誰が思うだろうか。


ほんと、アンバランスだよなぁ。


「御馳走様でした!」


リンがアップルパイを食べ終え、満足したのか満面の笑みで手を合わせて挨拶をする。


「飯も食い終わったし、王墓探索用の登録にいくか」

「リンちゃんいっぱい食べてたけど、お腹苦しくない?大丈夫?」

「はい!まだまだ食べれます!」


お前の胃袋は底なしか?そう言いかけたが、子供とは言え一応女の子なので口にするのはやめておいた。

この年頃の女の子は特に扱いが難しいと聞く。

これからダンジョンに行くのに、メインにへそを曲げらでもしたら叶わんからな。


「お客さん達って、王墓に行かれるんですか?」

「まあ、そうだけど?」

「あ……あの、良かったら……あ、いえ何でもないです。頑張ってくださいね!」

「お……おう」


ニカは何か言いかけて止める。

そしてそのままカウンターの方へ行ってしまった。


いったい何だってんだ?


少々気になるが、一々人の事情に首を突っ込んでいたら切りが無い。

どうしても伝えたい事があるのなら、そのうち言ってくるだろう。


「んじゃ行くか」

「はーい!」


俺達は席を立ち樫木停を後にする。

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