第43話 種蒔き
「
呪文を唱えると聖なる力の籠った光球が生まれる。
私はそれを、空飛ぶワイバーンへと放った。
光球は高速で目標へと迫り、見事ワイバーンに直撃してその邪悪な命の灯を一瞬で散らす。
「お見事です姉上!姉上の魔法はいつ見ても正確無比で、惚れ惚れするばかりです!」
「ありがとう」
だらだらと顔から汗を流しながら、弟がお世辞を言ってくる。
いや弟の事だ、お世辞ではなく本気で絶賛しているのだろう。
たかだかワイバーンを数十匹落とした程度なのに……
我が弟ながら、本当に大げさで困ったものだと苦悩する。
後、そんなに熱いなら鎧を脱げばいいのにとも思う。
エルフの住まう森はかなり蒸し暑い。
そんな森の中、いつも通りのフルプレートなど着こめば暑いに決まっている。
一応森に入る前に注意はしたが……
「私は姉上の盾です!その私が鎧を脱ぐわけにはまいりません!」
と来たものだ。
普段は何でも言う事を聞く癖に、こんな時だけ無駄に頑固で困る。
正直臭いし暑苦しいから脱いで欲しいのだが、自分の為に頑張っている弟に流石にそれは言えなかった。
「それでどうしましょう?このまま
ティータの使うスキルで、広範囲の魔物の攻撃欲求を自分に向けさせる特殊なすきるだ。
そのため、使うと辺り一帯の魔物がわらわらと寄ってくる。
「そうね……」
この辺りのワイバーンはもう殆ど狩りつくしている。
そろそろ別の場所に移動した方が――
そンな事を考えていると、消火活動で離れていたフラムがタイミングよく帰ってきた。
「消化活動お疲れ様です。もう大丈夫ですか?」
「はい。全部消してきました」
「でしたら、そろそろ場所を移動しようかと思っていたのですが」
「あ、それならもう大丈夫です。ワイバーンは粗方倒し終えたみたいですから」
「そうなのですか?でしたら彩音さん達のもとに向かいましょう。恐らくブラドと交戦中でしょうから」
これで気兼ねなく、やっと本命に取り掛かれる。
ワイバーン退治など所詮おまけに過ぎない。
ヴァンパイアを倒してエルフ達に恩を売る。
それが今回の目的だ。
正直今回の一件は、
亜人種の国での働きなど、教会からはほとんど評価されないからだ。
だがエルフに貸しを作っておけば後々利用できると踏んだからこそ、わざわざこんな所までやってきた。
「そうですね!たかしさん達が心配ですから急ぎましょう!」
彩音さんには一応ドラゴンリングを渡しているから、万に一つ負ける事はないでしょうけど……
別に彼も役立たずという訳ではないのだが、如何せん相手が悪すぎる。
「ええ、急ぎましょう」
「ま…待ってください姉上!あれを!!」
「急にどうしたの?」
ティータを見ると、驚いた様な表情で神樹の方を指さしていた。
いったい何なのかと、指さす方を見てみると。
「!?」
そこには黒く染まっていく神樹の姿が……
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